アズビルがDXプロジェクトで実感した、クラウドMES導入で大事な3つの勘所:製造IT導入事例(2/2 ページ)
PTCジャパンは2022年6月17日〜30日にかけて、オンラインイベント「PTC Virtual Forum 2022」をオンラインで開催中だ。その中でアズビルが、PLMやERPなどのシステムに加えてクラウドMESを導入した、同社グループのDX事例を紹介した。
「マスター整備の重要性」など3つのポイント
新井氏はアズビルのグループ企業であるアズビル金門への、PLMやERPなどの基幹システム、クラウドMESの導入事例についても紹介した。アズビル金門は、都市ガスや水道メーター、警報装置などの安全保安機器などを提供する企業である。
当時の製造部門は、「入出庫や作業実績時間の記録を手作業で行っている」「生産停止を要する一斉棚卸が存在する」「スケジューリング業務が属人化している」「作業日報の転記作業に負担が掛かる」といった課題を抱えていた。このためクラウドMESを導入することで、属人化の解消や、業務の集約化、転記作業や口頭伝達の負担削減などを目指した。
プロジェクトは2020年3月からリモートワーク体制でスタートした。同年9月にはクラウドMESの導入テストを実施し、同年11月から3つの工場で並行導入を行っている。正式稼働は2021年5月からで、SAPのERP製品である「SAP S/4HANA」との連携も実現させている。
クラウドMESの導入を通じて新井氏は、「マスターデータ整備の重要性」「システムの並行運用の有効性」「現場での対応力の重要性」の3点が重要であるとの知見を得たと語る。
マスターデータ整備の重要性については、統一されたマスターデータが見当たらないことなどから実感したという。ローカルマスターが各工場にあったため、移行元となる、信頼性の高いマスターが存在していなかった。そのため、新たに真のマスターを構築する必要があった。
「E-BOM(設計部品表)は設計部門で紙ベースで作成されており、それを参照しながら各製造拠点でM-BOM(製造部品表)を作成していた。そのため、同じ部品に対して異なる品目コードが割り当てられていることもあった。加えて、顧客によって異なる仕様は社内伝票に記載して電話で伝えており、マスターデータに登録されていなかったという問題も存在した」(新井氏)
システムの並行運用が有効であることは、実際に業務負荷を低減できたことで確認したという。並行運用は、通常の生産体制を実施している生産ラインで行った。既存システムのマスターとトランザクションをクラウドMESに移行し、現行のものと新規の製造指示書を基にして、現状業務を実施した。「これによって、業務移行後も問題なく業務が進むことを確認し、現場作業者に安心感を与えることができた」(新井氏)。
しかし、実際にシステムを移行してみると、一部の業務フロー設計において、特殊な工程の把握ができてないため、その工程の製造指図を別途作成しなければならず、業務負荷が増大するといった問題も発生した。ただ、アズビル金門に導入したクラウドMESは、個別の業務パターンをシステムパラメーターの設定次第で組み合わせて、業務フローを定義できる仕組みにしていた。加えて、クラウドを活用したシステムのため、リモートワークによって短期間で問題に対応することができたという。
新井氏は「もともと組み立て加工業では、業務全体を事前に洗い出すことが難しい。業務変化も多いため現場でのシステム対応力が必要だと痛感させられた」と振り返った。
基幹システムとクラウドMESの稼働から1年がたち、現在、アズビル金門では棚卸業務の改革に取り組んでいる。以前は工場を一時停止して一斉棚卸を行っていたが、循環棚卸に移行しており、「業務運用は安定期を迎えた」(新井氏)としている。導入後のユーザー評価を実施し、成果が見え始めていることも確認した。
今後のDXについて新井氏は「プロジェクト中に発見した、残存するExcelなどの仕組みをシステム化することを目指す。BCP(事業継続計画)対策の他、いわゆる『2025年の崖』への対応を進めていく。現状の可視化やデータ分析を行えるフィールドデータレイク構築にも取り組む」と語った。
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