「真のカイゼン」が攻めのDXに必要な筋肉を育てる:「5つのムダ」から取り組むDX時代の真のカイゼン(1)(1/2 ページ)
本連載では製造業が取り組むべき、DX時代の「真のカイゼン」について解説する。第1回ではDXで何を実現すべきなのか、また「攻め」と「守り」のDXの違いは何かについて紹介したい。
デジタルトランスフォーメーション――DXの略語で呼ばれるこの言葉は、IT業界にとどまらず、いまや新聞やテレビでも日本企業が取り組むべき重要な課題、キーワードとして連日取り上げられている。
ところで、製造業で長年うたわれているキーワードとして「カイゼン」がある。これは、現場が中心となって問題を解決するという取り組みで、日本を端緒にしてグローバルに浸透している。このカイゼンもDX時代に対応させていく必要があるだろう。
本連載では、製造業が取り組むべきDX時代の真のカイゼンについて、3回にわたって解説する。
「2025年の崖」が与えた衝撃
スピーディーにDXに取り組まないと、市場競争を確立できない時代がきている――。経産省が2018年9月に発表した「DXレポート」は、日本企業が危機的な状況を迎えつつあると警告し、昨今のDXの波を生み出すきっかけの1つとなった。危機感の背景にあるのが、クラウドやビッグデータ、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)などの新しいデジタル技術やSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)といったサービスの登場と、それらを積極的に活用して成長する新興企業、ゲームチェンジャーの存在である。
ゲームチェンジャーの代表格として有名なのは「GAFA」と呼ばれるIT企業だ。GAFAを構成するGoogle、Apple、Facebook、Amazon.comは自社ユーザーのデータを分析して、新たなテクノロジーを活用したビジネスを創造し、短期間に大きな成長を遂げた。ちなみに、筆者はGAFAに相当する製造業の代表的なゲームチェンジャーがテスラだと考えている。EV(電気自動車)を提供するだけにとどまらず、AIを活用した自動運転など、自動車に新しい価値を生みだしている。
さて、DXレポートでは、日本企業が新しいテクノロジーに向き合う際に大きな障壁となっている要因として、老朽化したレガシーシステムの存在を指摘している。レガシーシステムを抱える日本企業は少なくない。昔導入した既存システムを長年使い続けることで、老朽化だけでなく改修を繰り返して肥大化も進む。だが、やがてシステム開発に携わった社員も会社を去ることになると、レガシーシステムはブラックボックスのごとく内部が見通せず、うかつに触れられない存在となる。
先に挙げた新規テクノロジーは柔軟性に欠けた古いシステムでは取り入れることが難しい。さらにシステム自体の維持費用がかかることで、技術的負債は増大する一方だ。現行システムのメンテナンス要員は、すでにシステムを知っているものが担当することになるため、新しい技術者も育ちにくい。さらにサイバー攻撃など、外部からくる新たな脅威に対して万全のセキュリティで臨むことも難しくなる。
「この状態が2025年まで続くと、日本企業は競争力を失い、12兆円の経済的損失を生む」とDXレポートでは指摘する。ちょうど2025年頃に現行システムをメンテナンスしてきた技術者も定年を迎えるといったこともあって、「2025年の崖」として大きな話題となった。
システムだけでなく意識の変化が不可欠
2025年の崖を回避するために企業はどのような対策を取ればよいのか。経産省のレポートが出た2018年以降、企業はさまざまな対策をとっている。
大まかな傾向として、メンテナンスを繰り返してきた古いシステムを刷新する企業が多く見られるようになった。新システムでクラウドなど新しいテクノロジーに対応した企業は、システムを利用する中で蓄積されたデータを分析して事業に活用しやすくなる。セキュリティ対策も旧システムに比べて堅牢(けんろう)となる。
また、2020年から続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックという予想外の事態は、企業のデジタル化を後押しする要因にもなった。緊急事態宣言によって出社できない状況となったことから、テレワークを導入する企業が一気に増えた。
こうした変化はDX推進という観点で見ればプラスに受け取れる面もある。だが、新しいシステムの導入によって、「すでに十分にDXを実践した」と考える企業も出てきた。「レガシーシステムを刷新して、テレワークも実践中だ。これで当社は立派なDX企業になった」と考える経営者が増えたというわけだ。
だが、先ほど紹介したGAFAに代表される企業との競争に勝つためには、レガシーシステム刷新だけで十分なのだろうか。その疑問にNOを突きつけるように経済産業省は、第2弾となる「DXレポート2(中間取りまとめ)」を2021年12月に公開した。
DXレポート2では国内企業にアンケートを実施している。その結果として、DX未着手企業とDX途上企業が日本企業の9割を占めると結論付けた。
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