柔らかくて強い、生体骨に近い特性の金属材料を開発:医療機器ニュース
東北大学は、生体骨に匹敵する柔らかさと高い耐摩擦性を両立させた、新規コバルトクロム系生体用金属材料を共同開発した。人工関節やボーンプレート、ステントなどへの応用が期待できる。
東北大学は2022年5月19日、生体骨に匹敵する柔らかさと高い耐摩擦性を両立させた、新規CoCr(コバルトクロム)系生体用金属材料を開発したと発表した。日本原子力研究開発機構、J-PARCセンター、チェコ科学アカデミーとの共同研究による成果となる。
生体用金属材料は、ステンレス鋼、CoCr合金、Ti(チタン)合金などが主に利用されている。既存のCoCr合金は耐摩擦性に優れているものの、応力とひずみの比であるヤング率が生体骨の約10倍も高く、柔らかさに欠けることが課題となっている。
新たに開発した金属材料は、コバルトとクロムを主成分とし、アルミニウムとシリコーンを添加したCo-Cr-Al-Si合金だ。
単結晶材料には、結晶の方向ごとに弾性的特性が異なる性質「弾性異方性」があるが、体心立方構造の新規CoCr合金は、面心立方構造の既存CoCr合金と比べて大きな弾性異方性を持つ。例えば<110>方向では極めてヤング率が高く、<100>方向ではヤング率が低い。
新規CoCr合金は、ヤング率の低い<100>方向の単結晶を用いることで、生体骨と同等の柔らかさを得られた。一般的な生体用金属材料では、ヤング率が低いと耐摩擦性も低くなるが、新規CoCr合金の耐摩擦性は既存CoCr合金に匹敵するほど高い。また、1.65%もの大きな変形に対して1000万回以上の疲労寿命を示し、高い耐食性があることも分かった。
超弾性ひずみは17%と高く、ステントや多機能性生体材料への応用が期待できる。既存の超弾性合金として知られているNiTi(ニッケルチタン)合金でも、超弾性ひずみは8%程度だ。
このように、新規CoCr合金は耐食性、耐摩耗性、超弾性特性に優れ、ヤング率が低いことから、人工関節やボーンプレート、ステント、ガイドワイヤなどへの応用が期待できる。
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