日本電産の半導体戦略は、半導体メーカーに「作りたい」と思わせること:車載半導体(2/2 ページ)
日本電産は2022年6月7日、半導体ソリューションセンターに関する説明会を開いた。同センター 所長の大村隆司氏(日本電産 執行役員 副CTO)が出席し、同センターの役割や狙いについて説明した。
世界中に「RFQ」をばらまく
第2段階で重視するのは半導体メーカーに向けて発行するRFQ(Request For Quotation、見積もり依頼書)だ。カタログから必要な半導体を選ぶのではなく、半導体メーカーに日本電産が必要とする半導体を仕様として伝える作業に力を入れる。大村氏は、世界中にRFQをばらまく意味で「グローバルRFQ」と表現した。
半導体メーカーにRFQを発行し、回答を得てから実際に作ってもらい、最初に作ってくれた半導体メーカーと組む。RFQには、モジュールの構造やチップサイズ、基板、製造方法、開発環境、評価環境などを含めた技術要求仕様の他、年度別、数量別の価格などが含まれる。半導体メーカーに情報提供を要求するだけでなく、日本電産側からもさまざまな見通しを示す必要がある。
“良いRFQ”はミスコミュニケーションを減らし、日々の価格交渉などの作業負荷の低減につながる。また、長期の見通しを示すことで投資リスク低減も図れる。2023年にRFQの発行をスタートすると、2026年以降に供給がスタートする。
大村氏は「RFQは、半導体メーカーに作りたいと思ってもらえるかどうかのカギを握る。大手テック企業で半導体を自社生産しているところがないのは、RFQでうまく表現できていれば自社生産の必要はないからだ。半導体メーカーに『作りたい』と思ってもらえないものを自社生産しても意味がない。半導体メーカー出身者としても、社内に良いRFQを書ける人がいてほしい」とその重要性を語った。
「半導体の調達といっても、何を使うかのセレクションも重要になる。その中でいかに最適なパートナーを確保できるかがRFQだ。長期で契約するための王道だが、確実にやることで半導体メーカーから見て“一番買ってくれるお客さん”になれる。どうすれば半導体メーカーがこちらを向いてくれるか、半導体メーカーとどうすればいい関係を持てるのか、知られていない事柄が意外と多いと感じている。さらに、バラバラに購入するのではなく、仕様を社内で標準化して絞り込む必要がある。日本電産では、またE-Axleのような新しい製品では、それがやりやすいと考えている」(大村氏)
RFQの難しさについて大村氏は「RFQは経験者にしかできない。5〜10年先をみて、世の中がどう変わるか、どんなIPやインタフェースが必要か、見通しを持つ必要がある。できる人はそうそういないが、自分はやってきた。その経験でRFQができそうな人を見極めることもできる。そういう人材を半導体ソリューションセンターに集める。半導体ソリューションセンターは、半導体メーカーの期待に応えるプロフェッショナル集団でありたい」と語った。
「内製」で工場より重要なのは
第3段階はインテリジェントモーターの実現であり、ソフトウェアの果たす役割が大きくなる領域だ。半導体メーカーやパートナーとエコシステムを構築して臨む。「一緒にやれば難しいものも作れる。グローバルにエコシステムを構築すれば、各社の得意分野で協力を得られる。インテリジェントモーターの提供に向けて『内製』する半導体も出てくる。内製の手段は『自社工場を建てること』だけではない。重要なのは、自分たちの強いIPがあるかどうか。他社のIPで差別化はできない。自分たちでIPを作って半導体に載せることが『内製』だ。日本電産のIPが入っていないと内製したとはいえない」(大村氏)。
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