構造を簡素化することで、最大30倍以上伸びるゲルを開発:医療技術ニュース
東京大学は、ゲルの網目の分岐数を1つ減らした3分岐構造のゲルが、30倍以上伸ばしても破断しない、強い強靭性を持つことを発見した。繰り返し負荷を与えても常に一定の強靭性を示す、ロバスト強靭性も示された。
東京大学は2022年4月7日、通常のゲルの最大30倍以上伸ばしても破断しない、強い強靭性を備える3分岐構造ゲルを開発したと発表した。理論限界の90%まで破断せずに伸び、繰り返しの負荷にも常に一定の強靭性を示すロバスト強靭性も示された。
ゲルは、長いひも状の高分子鎖間の架橋反応で形成される3次元網目状高分子が、水を保持した物質となる。ゼリーなどの食品や、ソフトコンタクトレンズなどの医用材料に使用される。通常、ゲルを構成する高分子の網目は、2本を架橋すると4方向に枝分かれした4分岐構造になる。
研究チームは、網目の分岐数を減らす引き算の構造設計により、4分岐構造のゲルの枝分かれを簡素化した3分岐構造のゲルを作製。このゲルが、4分岐ゲルよりも最大で30倍以上伸びることを確認した。また、3分岐と4分岐の分岐点を一定分率で有する中間的な分岐数のゲルを複数作製して比較したところ、3分岐ゲルに近づけるほどよく伸び、強靭化した。
3分岐ゲルの伸びを正確に測定するため、高分子の濃度や長さを調整してあえて伸びない3分岐ゲルを作製し、延伸可能な理論限界について調べた。張り詰めた時の長さをたわんだ状態の端と端の間の距離で割った値のことで、一般的な4分岐ゲルは限界の30%程度で破断するが、3分岐ゲルは90%まで伸びることが分かった。
さらに、高性能の放射光による小角、広角X線散乱測定を用いて、延伸状態の3分岐ゲルの網目構造を観察したところ、3分岐ゲルの高い強靱性は伸張誘起結晶化に由来することが分かった。伸張誘起結晶化とは、強く引き伸ばされた高分子のひもが互いに寄り合ってナノスケールの結晶を形成する現象のことで、ゲルの破壊を抑制する役割を果たす。
分岐構造の簡素化で、伸張誘起結晶化による高分子材料の強靱化が可能になったことで、これまで強度不足で困難だった人工腱や靭帯用のゲル材料開発が期待される。
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