分子マシンを用いた架橋剤で高分子ゲルの伸張性と靭性が大幅に向上:医療機器ニュース
名古屋大学は、分子マシンの一種であるポリロタキサンを利用し、架橋点が自由に動ける架橋剤を開発。これを用いて高分子ゲルを調製する際、ポリロタキサンの分子量が大きいほど、高分子ゲルの靭性と伸張性が飛躍的に向上することも明らかにした。
名古屋大学は2016年11月21日、分子マシンの一種であるポリロタキサンを利用し、架橋点が自由に動ける架橋剤を開発したと発表した。また、これを用いて高分子ゲルを調製する際、ポリロタキサンの分子量が大きいほど、高分子ゲルの靭性と伸張性が飛躍的に向上することも明らかにした。
同研究は、同大学大学院工学研究科の竹岡敬和准教授と東京大学大学院新領域創成科学研究科の伊藤耕三教授らの共同研究によるもの。成果は、2016年12月11日発行予定の国際学術誌「Chemical Communications」に掲載される。
同研究グループは、高分子ゲル用の架橋剤として、ポリロタキサン架橋剤を用いることで、刺激応答性高分子ゲルの力学物性と刺激応答性が大きく改善され、また、従来同様に簡単に作れることなどを、これまで報告してきた。
今回の研究では、架橋点が動くポリロタキサン架橋剤を新たに開発。そして、ポリロタキサン架橋剤の分子量を大きくして高分子ゲルを調製することで、高分子ゲルの靭性や伸張性を飛躍的に向上させることに成功した。これは、分子量の増大により、架橋点の可動範囲が広がったことによる。
ポリロタキサン架橋剤を用いることで、ラジカル重合で得られるさまざまな高分子ゲルに、可動性の架橋点を導入でき、多くの高分子ゲルの力学物性を簡単に向上させられる。分子量を調節することにより、しなやかで強靭なソフトマテリアルの開発が期待できるという。また、刺激応答性高分子ゲルでは、応答速度も飛躍的に向上することが確認された。それにより、人工筋肉やセンサー、ドラッグデリバリーシステムなどへの応用も可能になる。
高分子ゲルは、その網目構造によって分子ふるい能力、液体保持性、振動吸収性など多様な性質を持ち、多くの研究分野で利用されている。特に、外部からの刺激に応じて体積や表面物性などを変化させる刺激応答性高分子ゲルは、医療や自動車・航空機など、より高度な研究分野での応用が期待されている。しかし、従来の刺激応答性高分子ゲルは、高分子の網目の構造が不均一で、溶媒をたくさん抱えた状態では力学的に脆かった。また、力学的強度などを改善するために、これまでさまざまな方法が取られてきたが、それらは調整方法が複雑だったり、力学物性と刺激応答性を兼ね備えるのが困難だったりという課題があった。
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