グルコース応答性ゲルと血液透析用中空糸を組み合わせた人工膵臓デバイス:医療技術ニュース
名古屋大学は、グルコース応答性ゲルを血液透析用中空糸と組み合わせることで、インスリン放出能を飛躍的に改善した人工膵臓デバイスを開発した。
名古屋大学は2020年6月18日、グルコース応答性ゲルを血液透析用中空糸と組み合わせることで、インスリン放出能を飛躍的に改善した人工膵臓デバイスを開発したと発表した。同大学環境医学研究所 教授の菅波孝祥氏らと、東京医科歯科大学、奈良県立医科大学らの共同研究による成果だ。
近年、機械や電気などのエレクトロニクス駆動を必要とせず、血糖値の変動に応じて自律的にインスリンを放出する、クローズドループ型の人工膵臓デバイスの開発が求められている。しかし、これまでの試みでは、使用するタンパク質の変性に伴う不安定性や毒性により、実用化されていなかった。
研究グループは、グルコース(糖)に応答する「フェニルボロン酸」を主成分とする高分子ゲル(グルコース応答性ゲル)を作製。2017年には、このゲルとシリコンカテーテルを組み合わせ、エレクトロニクスフリー、タンパク質フリーのクローズドループ型人工膵臓デバイスを作製し、マウスによる機能実証に成功した。しかし、マウスとヒトは1000倍以上の体重差があり、スケールアップする方法を模索していた。
今回の研究では、血液透析用の中空糸をグルコース応答性ゲルでコーティングすることで、インスリン放出効率を飛躍的に向上させることに成功した。このデバイスでは、インスリン放出量がグルコース応答性ゲルの表面積に比例して増加するため、中空糸構造によって放出面積が確保できた。従来のマウス用デバイスと同等のサイズで、体重が10倍のラットに有効であることを確認した。
また、軽症糖尿病モデルラットに今回開発したデバイスを皮下留置したところ、活動期の高血糖が顕著に改善した。一方で、非活動期の正常域血糖値には、影響を及ぼさなかった。デバイスの効果は、1週間以上持続して確認できた。
糖尿病モデルラットで平均血糖値を正常化したことに加え、低血糖を引き起こさず日内変動指標を大幅に改善したのは、エレクトロニクスフリーなシステムとしては世界初になるという。
血糖日内変動は糖原病合併症の発症に深く関わるため、このデバイスは単に血糖値を低下させるだけでなく、合併症予防に有効である可能性が示された。また、臨床応用されれば、1型、2型糖尿病を含めたインスリン療法の早期導入につながる可能性があるとしている。
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