百日咳の咳発作発症メカニズムを解明、3種類の病原因子により誘発:医療技術ニュース
大阪大学は、百日咳のマウス咳発症モデルを確立し、百日咳の咳発作発症メカニズムを明らかにした。3種類の病原因子が協調して宿主のブラジキニン-TRPV1経路を活性化し、咳発作を誘発する。
大阪大学は2022年3月31日、百日咳のマウス咳発症モデルを確立し、百日咳の咳発作発症メカニズムを明らかにしたと発表した。百日咳菌が産生する3種類の病原因子が、協調して宿主のブラジキニン産生を増強してTRPV1の興奮感受性を高めることで咳発作を誘発する。
百日咳菌の宿主はヒトに限られており、これまで汎用性の高い動物モデルは確立されていなかった。そこでまず実験小動物モデルの確立に取り組み、汎用マウス系統であるC57BL/6マウスに大量の百日咳菌を感染させることで、百日咳の咳発作を再現するマウス咳発症モデルを確立した。百日咳菌の感染だけでなく、菌体破砕液の経鼻投与によってもマウスの咳発作が誘発された。
モデルマウスを用いた解析により、百日咳の咳発作は、リポオリゴサッカライド(LOS)、病原性関連遺伝子Vag8、百日咳毒素の3種類の病原因子が、協調して咳発作誘引に関わっていることが明らかとなった。
炎症に関与するペプチドであるブラジキニンは、咳発作を誘発するTRPV1の興奮感受性を高めることが知られている。LOSは感染局所におけるブラジキニン濃度を増加させ、Vag8はブラジキニン生成経路の抑制因子C1インヒビターを阻害することでブラジキニン生成を高めていた。さらに百日咳毒素は、TRPV1の感受性を負に制御するGiタンパク質の機能を阻害することでTRPV1を活性化していたことが判明した。
また、ブラジキニン受容体とTRPV1の拮抗薬が百日咳の咳発作を抑制することも示され、治療薬開発につながる可能性が示唆された。
百日咳は、特徴的な咳発作を伴う呼吸器感染症だ。ワクチンの開発、普及により抑制されていたが、乳幼児期に接種した成人のワクチン効果減弱や変異株の出現で近年は患者が増加している。咳発作に有効な治療法が望まれているが、これまで百日咳の咳発症メカニズムが不明のため、原因療法につながる研究が進んでいなかった。
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