電力損失がSiの20分の1、NTTが次々世代パワー半導体AlNのトランジスタ動作に成功:組み込み開発ニュース
日本電信電話(NTT)は、SiC(炭化シリコン)やGaN(窒化ガリウム)を上回る次々世代パワー半導体材料として期待されるAlN(窒化アルミニウム)を用いたトランジスタ動作に成功したと発表した。AlNのトランジスタ動作に成功したのは「世界初」(NTT)だという。
日本電信電話(NTT)は2022年4月22日、SiC(炭化シリコン)やGaN(窒化ガリウム)を上回る次々世代パワー半導体材料として期待されるAlN(窒化アルミニウム)を用いたトランジスタ動作に成功したと発表した。Ga2O3(酸化ガリウム)やダイヤモンドと並ぶウルトラワイドバンドギャップ半導体として知られるAlNについて、パワー半導体として利用するのに必要なトランジスタ動作に成功したのは「世界初」(NTT)だという。
MOCVD(有機金属気相成長)法により作製した高品質AlN半導体のトランジスタの電流−電圧特性は、オーミック特性による線形性の良い電流の立ち上がりと極めて小さいリーク電流を示した。また、パワー半導体の性能として重要な絶縁破壊電圧についても1.7kVと高い値を実現した。
さらに、AlNトランジスタは高温でも安定して動作することを明らかにした。従来の半導体材料と異なり、AlNトランジスタでは高温で性能が向上し、500℃において電流は室温の約100倍に増加した。また、500℃でもリーク電流は10−8A/mmと非常に低く抑えることができた。その結果として、AlNトランジスタは500℃でも106を超える高いオンオフ電流比を示したという。
今回の成果が得られた技術的なポイントは3つある。1つ目は、高品質AlNの作製技術で、高温下でのAlN結晶を作製できるように原料ガスの供給方法を工夫した独自のMOCVD技術を開発することにより、AlN結晶中の残留不純物および結晶欠陥の密度を低減した。その結果、世界最高の電子移動度を有する良質なn型伝導性のAlN半導体を実現した。
2つ目は、良好なオーミック特性を有する電極形成技術である。AlNは、電極となる金属素材とのエネルギー障壁が大きいためオーミック接触の形成が難しい。そこで、AlN上にAl組成を徐々に減少させた組成傾斜AlGaN層を形成し、AlNの代わりにオーミック接触の形成が容易な低Al組成のAlGaNを金属と接触させることにより、良好なオーミック特性を得ることに成功した。
(a)金属とAlNでは難しいオーミック接触の形成について、(b)AlGaN組成傾斜層を挟むことで可能になる。(c)組成傾斜の有無によって電流−電圧特性に大きな違いがあることが分かる[クリックで拡大] 出所:NTT
3つ目は、理想的なショットキー特性の実現だ。ショットキー特性は、金属材料の種類以外にも半導体の結晶品質、金属と半導体の界面状態、オーミック電極側の接触抵抗に影響される。NTTは、高品質AlNの作製と良好なオーミック接触の実現によって、整流性の良いショットキー特性を得ることに成功した。
酸化ガリウムやダイヤモンドに並ぶウルトラワイドバンドギャップ半導体
次世代パワー半導体として既に実用化が進みつつあるのがSiCやGaNである。これまで用いられてきたSi(シリコン)と比べてバンドギャップが広いことから、絶縁破壊電界も大きいことからワイドバンドギャップ半導体と呼ばれている。
そして、次々世代のパワー半導体として期待されているのが、SiCやGaNよりもバンドギャップが広いGa2O3とダイヤモンド、そしてAlNなどのウルトラワイドバンドギャップ半導体だ。AlNを用いたパワー半導体を作成できれば、電力損失をSiの5%以下、SiCの35%以下、GaNの50%以下にまで低減できることが理論的に予想されている。
ただし、AlNは1世紀以上前に合成されてから絶縁体として利用されており、半導体特性を示すものはなかった。このAlNの半導体化について、世界で初めて2002年に成功したのがNTTである。ウルトラワイドバンドギャップ半導体の中でもAlNは、産業応用に適した大面積ウエハー上への作製が可能であり、またGaNとのヘテロ接合形成による多様なデバイス構造を作製できるなどの利点がある。しかし、これまでAlNパワー半導体に関する報告は少なく、またその特性も優れたものではなかったという。
なお今回の成果は、2022年1月7日発行の論文誌「IEEE Electron Device Letters」に掲載された。
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