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「エンジニア的発想」と「コンサル的発想」の違いとは凡人エンジニアが経営コンサルタントに生まれ変わるまで(7)

ある大手メーカーのエンジニアが、さまざまな紆余(うよ)曲折を経て、新たなキャリアとして経営コンサルタントになるまでのいきさつを描く本連載。第7回は、1年間のコンサルティング研修で学んだ「エンジニア的発想」と「コンサル的発想」の違いについて紹介する。

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 1年間のコンサルティング研修の中で、私にとって最も大きかった出来事は、斎藤顕一氏からの「ダメ出し」でした。1つは、バリューチェーン・イノベーター(VI)の提案に対するダメ出し、もう1つは、私自身に対するダメ出しです。

⇒連載「凡人エンジニアが経営コンサルタントに生まれ変わるまで」のバックナンバー

 VIへのダメ出しは強烈でした。彼は私たちが作った提案書を見て、「こんなものは本質的問題じゃない。これで何が解決するのか全く分からん」と切り捨てました。なぜ「本質的」ではないのか。クライアントの業績に対するインパクトがないからです。

 例えば、私たちはクライアントに「機材管理のルールを整備する」という提案をしました。機材の予約システムを作り、使いたい人が使いたいタイミングで使えるようにするというものです。しかし、そのルールによって現場のエンジニアの仕事はスムーズになるかもしれませんが、会社の業績が上がるわけではありません。

 今でこそ、その提案は「エンジニア的発想」だったことが分かります。しかし当時は、現場で上がっている課題に対する提案であり、なぜそれがダメなのか、すぐには納得できませんでした。そもそも現場のエンジニアである私たちに、会社の業績を上げるための提案などできるわけがないと考えていました。しかし、その発想こそ転換しなければならなかったのです。

 エンジニアが自分たちの現場で把握できる情報には限界があります。それ以上の情報を得るには、他の現場、他の部門の人たちへヒアリングをしなければなりません。自分たちとは別の視点で物事を見ている人たちから十分な「ファクト」を集め、視座を高めた上で本質的な課題を見極めていかなければならないのです。それが、斎藤氏が私たちに欠如していると指摘した「コンサル的発想」でした。

 他の現場や他の部門の人たちから情報を集めようとすれば、その人たちに手間をかけることになります。私たちの立場からすれば、クライアントに手間や負担をかけるということです。しかし、その「手間や負担の壁」を越えてファクトを集めることができなければ、本当の意味での事業課題は見つかりません。壁を越えるためには、社員の皆さんを巻き込む人間的な力が必要です。コンサルにはロジックだけではなく人間力が求められるというのも、私たちが斎藤氏から学んだ大切なことでした。

なぜ、君はそんな死んだ魚のような目をしとるんや

 コンサルティング研修では、斎藤氏と各メンバーの個人面談が行われました。個人面談で最初に言われた言葉を私はよく覚えています。「なぜ、君はそんな死んだ魚のような目をしとるんや」──。

「そんな暗い顔をしとるのはなぜだ。君は人が嫌いなのか」
「嫌いなわけではありませんが、社交性がある方でもありません」
「ならば、社交性を身に付けなさい。未来を語るコンサルタントは明るく振る舞わなければならん」

 そんなやりとりがありました。エンジニアは明るく振る舞ったり、自己演出をしたりする必要はない。それがそれまでの私の考えでした。人当たりがよく、服装に気をつけたりするのは営業や顧客と対話する担当者がすることで、エンジニアはリュックとジーンズで現場に入って、黙って自分の腕で勝負すればいい──。そういう職人気質こそがエンジニアのスタイルであると私は思い込んでいました。だから、明るく人と接しようなどと考えたこともなく、必要だとも感じたことはなかったのです。

 しかしコンサルタントは、人を巻き込んで、人と一緒に問題を解決する仕事です。死んだ魚の目をした人間が、他の人を巻き込んだり、他の人と力を合わせたりすることができるはずはありません。

 私は、自分はコミュニケーション下手であると思い込んでいましたが、それは単にそれまでの環境がコミュニケーションをそれほど必要としなかったことにすぎなかったのです。つまり、上手か下手か、向いているか向いていないかではなく、やったことがあるかないかが問題なのです。実際、斎藤氏からコミュニケーションの重要性を教えていただき、人との対話に意識的に取り組んでみたら、それほど難しいことではありませんでした。やるべきことが明確にあって、それに対して前向きな気持ちにさえなれれば、人は変われる。そのことを私は知りました。

 それは、振り返ると私にとってとても大きな転換点だったと思います。私が斎藤氏から学んだのは、コンサルティングのノウハウ以上に、人との接し方や仕事への向き合い方、あるいは人としての「生き方」だったと感じています。私は35歳にして、「死んだ魚の目をした暗い男」ではなくなり、「コンサルもできるエンジニア」への道に向け大きな一歩を踏み出すことができたのです。

筆者プロフィール

桑山和彦(Modis株式会社 コンサルティング事業部 事業部長)

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通信機器メーカー勤務後、リーマンショックを機に株式会社VSN(現Modis株式会社)に転職。入社後はエレクトロニクスエンジニアとして半導体のデジタル回路設計やカメラ用SDK開発業務に携わる。2013年より“派遣エンジニアがお客さまの問題を発見し、解決する”サービス、「バリューチェーン・イノベーター(以下、VI)」を推進するメンバー「バリューチェーン・イノベーター・プロフェッショナル」に抜てき。多くの企業で現場視点と経営視点の両面を併せ持った問題解決事案に携わる。現在は、全社的にVIサービスを推進するコンサルティング事業部の事業部長として、企業のバリューチェーン強化、DX推進、人事組織開発について実践的なコンサルティングサービスを推進。Modisのコンサルティング領域拡大をリードしている。

Modis https://www.modis.co.jp/

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