リーマンショックに翻弄され、エンジニア派遣会社へ:凡人エンジニアが経営コンサルタントに生まれ変わるまで(2)
ある大手メーカーのエンジニアが、さまざまな紆余(うよ)曲折を経て、新たなキャリアとして経営コンサルタントになるまでのいきさつを描く本連載。第2回は、リーマンショックを契機に大手メーカーを退職した後、派遣エンジニアとしてVSNに就職したいきさつを紹介する。
1980年代、日本は「産業の米」といわれる半導体の生産において世界のトップを独走していました。陰りが見え始めたのは、1990年代に入ってからです。私がメーカーに入社した1998年には半導体生産は既にピークを過ぎていましたが、それでも自動車業界などからの安定した需要はありました。
しかし、2008年のリーマンショックによって、日本の半導体産業の業績は急速に悪化しました。私が働いていた半導体部門も、まさに坂道を転げるような勢いで売り上げが落ちていきました。電気代を小まめに節約しなければならないほどの業績悪化になすすべもなく、社員のモチベーションもどんどん下がっていきました。そうして、ついに2010年には半導体部門を売却しなければならなくなったのです。
売却以前に社員のリストラが始まっていて、早期退職する人が相次いでいました。私は、まだ転職可能ラインといわれる35歳だったので、すぐに早期退職に申し込むことはなかったのですが、尊敬する先輩が辞めると聞いて、会社を去ることを決めました。
⇒連載「凡人エンジニアが経営コンサルタントに生まれ変わるまで」バックナンバー
エンジニアはプロ意識だけでは生き抜けない
会社を辞めた頃の私は、心身ともに疲弊した状態でした。一生懸命働いていたにもかかわらず、会社の業績にはまったく貢献できず、むしろ会社からはお荷物扱いされ、ほとんど放り出されるような格好で退職したわけです。連載第1回でお伝えした通り、スティーブ・ジョブズになりたくてエンジニアになったのに、行き着いた先はジョブズならぬ「ノー・ジョブ」です。気持ちがすさみ、しばらくは仕事する気も起きずに、失業保険をもらいながら、毎日ビリヤードばかりやっていました。
しかし後から考えると、このときの経験がのちにコンサルティングに生きることになりました。決められた要件に応じていいものをつくるのがエンジニアであり、そのプロ意識さえあれば、エンジニアとして生きていける。それまでの私はそう思っていました。しかし、会社がひとたび傾けば、エンジニアは簡単に職を失ってしまうような弱い存在だったのです。エンジニアの世界で生き残っていくためには、エンジニアリングのスキルだけでは十分ではない──。その思いが、のちに私にコンサルティングの勉強に本気で向かわせることになります。
さて、失業保険もいつまでも支給されるわけではありません。しばらくして再就職活動に本腰を入れましたが、リーマンショックの余波が続く中、エンジニアの求人は少なく、メーカーの募集はほぼゼロでした。そこで私は、エンジニア派遣会社に入社しようと考えました。今思えば大変失礼な話ですが、私はメーカー出身のエンジニアですから、派遣会社の社員よりも技術レベルは高いし、それなりの給料がもらえるだろうと見当をつけたのです。
入社したのは最初に面接を受けたVSNでした。これまた失礼な話ですが、そのときはとくにVSNに魅力を感じたわけではなく、市況が回復してメーカーが求人を出すまでの一時しのぎのような軽い気持ちで入社したのです。この選択が、のちに自分の人生を大きく変えることになるとも知らずに。
しかし入社してみると、2つの驚きがありました。1つは、派遣エンジニアに与えられる裁量権の大きさです。VSNは、自社の社員エンジニアをクライアントに派遣するモデルで、私自身も早々に東京都下の中堅メーカーに派遣されたのですが、派遣エンジニアでもかなりの裁量を与えられることを知りました。全体のスケジュール策定や設計に携わることができて、場合によってはクライアント側の社員を自分の部下のようにしてチームを組むこともありました。
もう1つの驚きは、VSNがエンジニアを非常に大切にしてくれる会社だということでした。そればかりでなく、現場のエンジニアのリーダーが会社経営に参画するという独自の仕組みもありました。取りあえず入社した会社でしたが、ここに来てよかったと私は思いました。
もちろん、リーマンショックの影響もあり、VSN自体の経営も決して順調ではありませんでした。エンジニアの派遣契約が次々に切られて、業績を立て直すための施策を早急に打たなければならなくなっていました。そこで、起死回生のソリューションとして生まれたのが、「バリューチェーン・イノベーター(VI)」というエンジニア業界に前例のない新しいサービスだったのです。
(次回に続く)
筆者プロフィール
桑山和彦(株式会社VSN コンサルティング事業部 事業部長)
通信機器メーカー勤務後、リーマンショックを機に株式会社VSNに転職。入社後はエレクトロニクスエンジニアとして半導体のデジタル回路設計やカメラ用SDK開発業務に携わる。2013年より“派遣エンジニアがお客さまの問題を発見し、解決する”サービス、「バリューチェーン・イノベーター(以下、VI)」を推進するメンバー「バリューチェーン・イノベーター・プロフェッショナル」に抜てき。多くの企業で現場視点と経営視点の両面を併せ持った問題解決事案に携わる。現在は、全社的にVIサービスを推進するコンサルティング事業部の事業部長として、企業のバリューチェーン強化、DX推進、人事組織開発について実践的なコンサルティングサービスを推進。VSNのコンサルティング領域拡大をリードしている。
Modis VSN https://www.modis-vsn.jp/
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫連載「凡人エンジニアが経営コンサルタントに生まれ変わるまで」バックナンバー
- スティーブ・ジョブズに憧れた少年はエンジニアを志した
ある大手メーカーのエンジニアが、さまざまな紆余(うよ)曲折を経て、新たなキャリアとして経営コンサルタントになるまでのいきさつを描く本連載。第1回では、エンジニアを目指したきっかけや、大手メーカーのエンジニアとして働いた10年間の経験などについて紹介する。 - 新型コロナが終息してもエンジニアという職業は安泰なままなのか?
VUCAの時代を迎える中、製造業のエンジニアという職業は安泰なのだろうか。2008年のリーマンショックも現在の新型コロナショックと同様に厳しい状況にあったが、そのときエンジニアの強みになっていたのは「コンサルティング力」だった。 - IoTの基礎と現状
「IoT時代」「IoT化」「IoTブーム」など、世の中にはIoTという言葉が溢れています。IT業界でこの言葉の意味を知らない方はいないと思いますが、実際はどれくらいの方々がIoTに直接携わっているのでしょうか。 - 「現場のコンサルティング力」で問題解決
飽きるほど耳にしてきた「問題解決」、だが実際の改善活動がうまくいかない……。そんな悩みを抱える経営者・管理職に“本当に進む”問題解決のための手法をレクチャー。 - 発想はセンスでも運でもない、技術だ
目まぐるしく変わっていく時代の中で、“新しい価値”を生み出すことを求められる世界のビジネスパーソン、そして、これからのエンジニア。今までにないサービスを生み出すためには新たな“発想”が必要です。演習と解説の“実践”を通し、“発想力”を強化する“イノベーション思考”を身に付けていただく連載がスタートします!