新型コロナが終息してもエンジニアという職業は安泰なままなのか?:VUCA時代のエンジニアに求められるコンサルティング力(1)
VUCAの時代を迎える中、製造業のエンジニアという職業は安泰なのだろうか。2008年のリーマンショックも現在の新型コロナショックと同様に厳しい状況にあったが、そのときエンジニアの強みになっていたのは「コンサルティング力」だった。
この数年、エンジニア、とりわけIT領域のエンジニアの人手不足が深刻化しているといわれるようになりました。例えば経済産業省は、2030年時点でIT人財不足がおよそ79万人に達する可能性があるとしています(私たちは働き手を、社会や企業にとって貴重な財産であるという意味を込めて「人財」と表記しています。この連載でも「人財」と表記するようにします)。
しかしこのことは、これからもエンジニアという職業が安泰であることを意味しません。経産省の試算は、ITニーズが今後も増大し、それに伴ってIT市場が拡大し続けることを前提としたものです。「VUCA」という言葉は多くの人がご存じかと思います。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉です。VUCAの時代を迎えている今日、現在の市場構造がこれから先も同じまま続いていくという保証はどこにもありません。これはもちろん、IT業界だけではなく製造業にもいえることです。
そのVUCAの時代は、今、まさに世界が直面している新型コロナウイルスのパンデミックによってさらに不確実なものになりました。歴史的に見てパンデミック後の世界は必ず大きく変容するといわれています。エンジニアを巡る環境も間違いなく変化するでしょう。人手不足から一転、雇用が大幅に減少し、失業するエンジニアが出てくる。そんな可能性もなくはありません。その不確実な未来において、エンジニアは自分の力をどのように発揮し、どのように生き延びていけばいいのか──。それがこの連載の大きなテーマです。
きっかけはリーマンショック
「コンサルティング力」がこれからの時代にエンジニアが生き延びていくために必要不可欠な能力になるだろう。そう私たちが考えるようになったのは、やはり大きな危機に直面したことがきっかけでした。2008年のリーマンショックです。
私が属するエンジニア人財サービスを提供するVSNでは、正社員エンジニアをクライアント企業に派遣するビジネスモデルで、当時も多くの社員を派遣していました。しかし、リーマンショックにより、その稼働率が大きく悪化しました。経営が早晩悪化することは目に見えていました。
そこで私たちは、会社が生き残るための戦略を模索し始めたのです。まず着目したのは、稼働率が悪化する中でも変わらずクライアント企業で働き続けていたエンジニアの存在でした。クライアント企業でも業績が悪化し自社内の人員削減に着手しているような状況でも、契約が更新され活躍を続けている。危機に際してもお客さまに必要とされている。そんなエンジニアがいるのはなぜか──。私たちはそのエンジニアたちにヒアリングを実施し、共通する能力について検討を重ねました。そこから見えてきたのが「コンサルティング力」だったのです。
コンサルティング力とは、端的に言えば「現場で生じている潜在的な不具合や課題を発見し、それを解決する力」のことです。私たちが2019年12月、約1000人のITエンジニアを対象に実施した意識調査によれば、およそ6割のエンジニアが「技術的スキルだけでは生き残れない」という危機感をもっていることが分かりました。技術スキル以外に高めるべき能力として第1位に挙げられたのは、まさしく「課題策を見つけて提案する『コンサルティング力』」でした。
では、エンジニアに求められるコンサルティング力とは何か。そして、その力をどのように身に着けていけばいいのか。それをこれから一年間にわたって読者の皆さまと一緒に考えていきたいと思います。どうぞ、おつき合いください。
筆者プロフィール
株式会社VSN 太田 剛 VIコンサルティングオフィス室長
大手メーカーへ新卒入社し、エンジニアとして勤務後、2005年にVSNへ中途入社。エンジン、トランスミッション、エアーバッグ、カーオディオ、ブレーキ、メーターなどの頭脳部分となる車載用マクロコンピュータの開発に従事後、エンジニア全体の組織の管理職としてエンジニアの組織化を推進。
現在は、VIコンサルティングオフィスの室長として、コンサルティングサービスを促進するとともに、取引先企業の経営層に対する戦略コンサルティングサービスを担当する他、問題解決の育成プログラムの構築から実施を行う。
株式会社VSN http://www.vsn.co.jp/
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