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キャリアを大きく変えた一本の電話凡人エンジニアが経営コンサルタントに生まれ変わるまで(4)

ある大手メーカーのエンジニアが、さまざまな紆余(うよ)曲折を経て、新たなキャリアとして経営コンサルタントになるまでのいきさつを描く本連載。第4回は、筆者がコンサルティングの英才教育を受けるチームへの参加を決めたときのいきさつを紹介する。

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 VSNの社員はエンジニアリングのプロフェッショナルでしたが、コンサルタントとしての専門的スキルはありませんでした。率直に言って、コンサルに関しては完全な素人集団でした。「コンサル型エンジニアリング」という新しいサービスで成功するには、プロフェッショナルの下でコンサルティングの方法を基礎から学ぶ必要がある──。サービス開始から2年たって、そのことの重要性に立ち返ったのです。

 講師をお願いすることになったのは、世界的なコンサルティングファーム、マッキンゼー・アンド・カンパニーで大阪支社副社長やパートナーを経験されてきた斎藤顕一さんでした。月に2日、1日8時間の講座でコンサルの基礎を徹底的にたたき込んでいただくことになりました。しかし、そのような講座を全社員が受けるわけにはいきません。そこで、少数の選抜チームが結成されることになったのです。まずは、そのチームのメンバーがコンサルの基礎を学び、それを社内に広めていくという二段階の戦法です。13人からなるそのチームの一人に選ばれたのが、なぜか私でした。

⇒連載「凡人エンジニアが経営コンサルタントに生まれ変わるまで」のバックナンバー

「現場」と「チャンス」、そのどちらを選ぶか

 上司から電話がかかってきたときのことはよく覚えています。夏の夜の7時くらいでした。電話に出て彼の声を聞いて、すぐに「やばい!」と思いました。その1週間くらい前、同僚の結婚式の二次会で、酒に酔った勢いでその上司と肩を組んで、彼の頭をバシバシたたいていた記憶がおぼろげによみがえってきたからです。

 「怒っているのかな。当たり前か……」とびくびくしながら耳を傾けると、彼は「重要な話がある」と切り出しました。クビか、左遷か、降格かと、次の言葉を待つ私に告げられたのは、こんな話でした。

 来年の4月から、コンサルティングの英才教育を受けるチームが発足する。俺はその一員にお前を推薦しようと思う。13人しかいないチームだ。1年間はそこで勉強しながら、バリューチェーンイノベーター(VI)の事業を推進する仕事に当たってもらう。よく考えて返事を聞かせてほしい──。

 あまりにも唐突な話でした。私はまだ入社3年目で、立場は主任クラスでした。なぜそんな私が選抜チームに選ばれるのか。しかも、このチームに入ることは、当時、就業していたクライアントの仕事から離れることを意味します。エンジニアにとって、現場から離れるということは、休職するようなものです。キャリアに1年間のブランクが生じてしまう。そのロスは致命的です。しかも私は、その頃働いていた現場が自分にとても合っていると感じていました。それを失うことになるのです。

 一方で、このようなチャンスはまたとないとも思いました。技術的なチャレンジは一人でもできますが、まったく新しい領域を学ぶチャンスを自力で切り開くことは難しい。これを逃したら、二度とこんな機会はないに違いない──。

 私は電話を片手に、頭をフル回転させました。その間およそ10秒。気が付くと、私の口は「やらせていただきます」と勝手に動いていました。

 後日、私はその上司からこんな話を打ち明けられました。彼は当時社内のエンジニアを管轄する立場にあって、全てのエンジニアの技術力や評価を把握していました。そのため、13人の選抜メンバーを選ぶ仕事を本部長から命じられたわけです。彼が候補に選んだのは、技術力だけではなく、プロジェクトを率いる人間力をもったメンバーでした。選抜チームのミッションには、コンサルティングを「学ぶ」ことだけでなく、そのスキルを社内に「広める」ことが含まれていました。VIは成果の出ていないサービスだったので、社員の中にはサービス推進に反発する人も少なくありませんでした。そのような人たちと対話し、目標を共有するには、人間的な力が必要になるというわけです。

 私は技術力には自信がありましたが、自分に人間力があるとはまったく思っていませんでした。そんな私を上司は候補に選んでくれたのです。酒に酔った勢いで頭をバシバシたたくような私を──。自分でははっきりとは覚えていませんが、私は電話口でこう言ったのだそうです。「自分のような者へ白羽の矢を立ててくださり、大きなチャンスを与えてくださってありがとうございます」。そのためらいのない快諾が決め手になったのだと、上司は話してくれました。

 思えば、この一本の電話が私のキャリアを大きく変えることになったのです。これが、凡人エンジニアが経営コンサルタントに生まれ変わる第一歩でした。

筆者プロフィール

桑山和彦(株式会社VSN コンサルティング事業部 事業部長)

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通信機器メーカー勤務後、リーマンショックを機に株式会社VSNに転職。入社後はエレクトロニクスエンジニアとして半導体のデジタル回路設計やカメラ用SDK開発業務に携わる。2013年より“派遣エンジニアがお客さまの問題を発見し、解決する”サービス、「バリューチェーン・イノベーター(以下、VI)」を推進するメンバー「バリューチェーン・イノベーター・プロフェッショナル」に抜てき。多くの企業で現場視点と経営視点の両面を併せ持った問題解決事案に携わる。現在は、全社的にVIサービスを推進するコンサルティング事業部の事業部長として、企業のバリューチェーン強化、DX推進、人事組織開発について実践的なコンサルティングサービスを推進。VSNのコンサルティング領域拡大をリードしている。

Modis VSN https://www.modis-vsn.jp/

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