手戻りを防げ、コンカレントエンジニアリングにPLMを活用するポイント:DX時代のPLM/BOM導入(4)(2/2 ページ)
本連載では製造業DXの成否において重要な鍵を握るPLM/BOMを中心に、DXと従来型IT導入における違いや、DX時代のPLM/BOM導入はいかにあるべきかを考察する。第4回はPLMを使ったコンカレントエンジニアリングのポイント解説だ。
コンカレント開発におけるPLM利用のポイント
では、オーバーラップによるリードタイム短縮と手戻りの抑制は両立できないのでしょうか? その答えは図表2のPLMシステムを用いた設計と生産技術によるコンカレント開発の具体例の中にあります。ポイントは、3Dモデルのステータスで設計完成度を共有すること、ステータスによって参照可否をコントロールすること、ステータスの更新を自動的にプロジェクトメンバーに通知することの3点です。
図中(1)〜(6)の手順に沿って確認しましょう。
(1)3Dモデル公開
設計部門は、作成した3DモデルをPLMシステムにチェックインします。設計部門だけで共有している段階では、ステータスは「仕掛」ですが、完成に近づき他部門に共有する段階になったと判断したら、ステータスを「公開」に変更します。同時に、プロジェクトの関係者にそれを自動通知します。
※ステータスとは、PLMの管理アイテムの属性のこと。ここでは「仕掛」⇒「公開」⇒「承認中」⇒「正式」と進むように設定しています。「仕掛」は設計部門のみ参照・更新可能、「公開」は設計部門+生産技術を含む生産準備を担当する部門が参照可能、「正式」になると更新不可になり、変更するにはリビジョンアップが必要、という設定です。
(2)CAE検証
生産技術部門は、設計部門から入手した3DモデルをもとにCAEモデルを作成し、製造性をシミュレーションで検証します。改善案を設計部門に口頭やレポートを用いてフィードバックします。
(3)3Dモデル公開(再)
設計部門は生産技術からのフィードバックに基づき、3Dモデルを編集し、再度3Dモデルのステータスを「公開」に更新します。通知により生産技術部門に検証を促します。
(4)金型・設備設計開始
「公開」された3Dモデルを見て、今後大きい変更がないことを確認後、金型・設備設計を本格的に開始します。同時に2回目のCAE検証結果を設計にフィードバックします。
(5)3D設計完了・出図
生産技術からのフィードバックを3Dモデルに反映し、設計を最終化後、出図します。その結果は、プロジェクトメンバーに完了通知されます。
(6)金型・設備設計最終化
生産技術は、出図結果を確認し、金型・設備設計を最終化します。
まとめ
今回は、コンカレント・エンジニアリングとは何か、コンカレントエンジニアリングにおけるPLMの管理ステータスを用いた部門間での情報コントロール方法について解説しました。
次回も引き続き、DX時代のPLM活用方法を紹介していきたいと思います。お楽しみに。
⇒前回(第3回)はこちら
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著者プロフィール
三河 進
株式会社グローバルものづくり研究所 代表取締役
大阪大学基礎工学部卒業。
大手精密機械製造業において機械系エンジニアとして従事後、外資系コンサルティングファーム、大手SI会社のコンサルティング事業を経て、現職に至る。
専門分野は、製品開発プロセス改革(3D設計、PLM、BOM、モジュラー設計、開発プロジェクトマネジメントなど)、サプライチェーン改革、情報戦略策定、超大型SIのプロジェクトマネジメントの領域にある。また、インターナショナルプロジェクトにも複数従事経験があり、海外拠点のプロセス調査や方針整合などの実績もある。
主な著書
- 「図解DX時代のPLM/BOMプロセス改善入門」,日本能率協会マネジメントセンター(2022)
- 「5つの問題解決パターンから学ぶ実践メソッド BOM(部品表)再構築の技術」,日本能率協会マネジメントセンター(2018)
- 「製造業の業務改革推進者のためのグローバルPLM―グローバル製造業の課題と変革マネジメント」,日刊工業新聞社(2012)
- 「BOM/BOP活用術」,日経xTECH(2016)
- 「グローバルPLM〜世界同時開発を可能にする製品開発マネジメント」,アイティメディア社MONOist(2010)など多数
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