スマート工場化は次段階へ、AI活用の定着とアプリケーション拡大に期待:MONOist 2022年展望(2/2 ページ)
スマート工場化の動きは着実に広がっている。その中で2022年はAIを活用した「アプリケーションの拡大」をポイントにデータ活用のさまざまな形が広がる見込みだ。
ポイントとなるAIの活用
製造現場でのAI活用は以前から期待されていたものの、有効なデータを集めることが難しかったために、AIモデル構築そのものに大きな負担がかかり、さらに得られる成果が見えづらかったためになかなか本格活用が広がらなかった。
例えば、製造現場のAIおよびデータ活用の場でよく指摘されていたのが、機器ごとのタイムスタンプやパラメータの違いだ。そもそも製造ラインではデータを共通で分析することを想定したものではなく、各機器が固有で正しい動きをするような設定をしているために、データを各機械から集めたとしても、時間軸や設定値もバラバラで同じ基準で分析がかけられない状況があった。ただ、見える化などで一元的に使えるデータを集めるような動きが広がってきたことで整理されたデータを取得しやすくなり、そのままAIを含めた分析が行えるような形になっている。AI活用の真価を得られるような環境が整ってきたといえる。
一方で、製造現場で使用しやすい仕組みがAIの技術として整ってきたこともポイントとして挙げられる。例えば、現在のAIの進歩は、深層学習(ディープラーニング)を中心とした機械学習技術が大きな役割を果たしているが、学習をベースとしているために学習時に想定した環境と、現実世界でずれが生じた場合、AIは有効な判断を行うことができなくなる。一方で製造現場は、1日で見ても明かりや温度、湿度などさまざまな変化がある他、作業を続けていれば、それぞれの機械工具の摩耗や経年劣化などがあり、常に変化し続けている。この変化の中で常にAIが正しく判断できているかを判断するようなAI管理技術などが進んできたことで、当初は最適な判断をしていたものが徐々に正しくなくなってくる「AIの陳腐化」問題を解決できるようになってきた。
これらのように「データ環境の整備」と「AIの洗練」が進んできたことで製造現場の中でもさまざまな形でAIの認知能力や分析能力を活用できるようになってきたといえる。
「原因の把握」と「予知の活用」そして「自律制御」
実際にAIを生かしたアプリケーションとして期待されているのが先述した「原因の把握」と「予知の活用」、そして「自律制御」である。
「原因特定」というのは、AIなどの分析技術を活用した複数要因の原因解析や不具合要因の把握を指す。既に先進企業では導入されて成果を生み出しているケースも見るが、これらの実績が確立されてきたことで、必要なデータ項目や条件などが整理され「使いどころ」が広がることでさらに普及する見込みだ。
製造現場ではチョコ停などの一次復旧などで日々の運用をしのぎつつ、同じ要因での停止を繰り返し生産性を低下させてしまうケースもありがちだが、これらのラインのさまざまな機器のデータをAIなどを活用した分析により、根本原因の把握が可能となり、チョコ停の要因を根治させることができるというものだ。
「予知の活用」は、データの変動をAIなどにより分析することで、異常の検知や今後起こる不具合の予知なども行うことができるようになるというものだ。データを基に異常や変化が起こりそうな前兆をつかむことで、生産ラインの停止そのものの時間を最短化し、計画的な保全に組み込むことができる。これらは既に活用が進んでいるが、基盤となる工場内のデータの蓄積が進んでいることで適用範囲がさらに広がってくる見込みだ。
これらをさらに進め、自動で機械に制御をかける「自動制御」も実用化が広がると予測する。AIによる「異常検知」と「原因特定」などを組み合わせることで、これを修正する推奨パラメータを提示するような動きは見られている。例えば、オムロンではマシニングセンタでの金型加工時に工具の加工条件をAIで分析し工具の摩耗の予兆を検知すると工具の移動速度などを自動調整する仕組みなどを実用化して自社工場に導入している。
その他の企業でも自動制御を見据えた分析や制御設定の提示などは行っている企業は多いが、現状では万が一の事故を警戒し「人への推奨」という形にとどめ、最終的に人が判断を下す運用を取っているところがほとんどだ。ただ、こうして得られた結果を「人の判断と機械の推奨結果を比較している段階」という検証を行っているところも徐々に出てきている。人の判断と機械の判断に「違いがない」ことが今後確認できれば、プログラム修正までを自動化する動きもさら増えてくる見込みだ。そして、これらの実績が積み重なれば「自動制御」を組み合わせ、ライン単位や工場単位の「自律化」という動きも現実味を帯びてくるだろう。
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