自動車「B2B時代」の本格到来、CASEの再定義が必要だ:グリーンモビリティの本質(1)(2/2 ページ)
本連載では、ここ数年自動車産業をけん引してきた「CASE」を将来型の「Beyond CASE」として再定義するとともに、近視眼的になりがちな脱ICE(内燃機関)やテクノロジー活用の本質をグリーンモビリティの観点から全12回で解説する。
個人がクルマを持たない、あるいは個人にクルマを持たせない社会で万人の移動ニーズを満たすためには、当然多くの運転者と最適な運行サービスが必要になる。人不足が進む中でより安全安心が求められる社会においては、徐々に自動運転(自律運転)がそうしたニーズを支える構造になる。その移動ニーズや移動環境が三者三様であることを理解し、技術面のみならず、場を特定することで実現させる必要がある。
なお、自動運転車に関しては、われわれの日々の生活の中で一般道を無人のクルマが行き来するような社会を想像するのは、まだ難しい。これは乗用車の世界をイメージするからである。AGV(無人搬送車)やAMR(自律搬送ロボット)は従前から物流倉庫や工場内では無人で荷物を運んでいたし、鉱山など人の立ち入りが限定された現場では、大型ダンプトラックやピックアップ車が前後車両の距離など周囲の環境を自律的に把握しながら走っているように、商用車の領域ではすでに自動運転車が重要な“戦力”である。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会でも人の輸送で無人輸送車が話題になったが、バスとしての商用車の特徴である「定期ルート」であれば一般道でも目にすることも多くなるであろう。技術的には実現可能であるが、なぜ浸透しないか? 最後の観点は、現実的な収支プランであり、ビジネスモデルである。
実験で自動運転車が使えても、現実の社会で運用可能となり、また、もうからなければ、取り組みは絵にかいた餅で、続かない。そこに必要な視点は、自動車業界であれば、既存の自動車のバリューチェーンにどう組み込むか。全産業で見れば、どのパートナーと組みお互いにもうけるか。さらにその地域社会にいかに恩恵(WinならずHappy)をもたらし定着させるか……である。いわゆる日本の「実証疲れ」の真因は、これらの欠落にある。
このように、自動車産業は脱炭素をはじめとするグローバルメガトレンドの最中に位置し、顧客は従来のような自動車購入者にとどまらなくなっている。その中で、CASEの各領域がそれぞれ連動すること、またその対象がヒトの移動(乗用車)にとどまらずモノの移動(商用車)も含めることが重要だ。その上で自動車産業のみならず全産業に跨ったバリューチェーンを構築すること、さらに、産業に加えて官・学・民を巻き込んだモビリティエコシステムを創造する「まちづくり」「社会づくり」の観点が不可欠である。これらがBeyond CASEの前提となる。
その意味で、Beyond CASEの世界では、企業はただ自社が勝てばよいという、全て囲い込む経営からの脱却を余儀なくされる。自動車のプレイヤーは、製造者責任という枠ではなく、ピーター・ドラッカー氏の言う「企業の社会的責任」を社会の一員として果たしてゆく覚悟が必要だ。さらに、グーグル(Google)など大手テック企業に向けられるような、独立性の観点からの厳しい監査を受ける可能性があることにも留意し、かじ取りしなければならない。
つまり、自由で公平な経済の競争基盤を守りながら、社会への責任を果たし、よりよい世界を作っていくという”社会平和”の観点を、競争力の源泉として今のうちから醸成しておくことが、Beyond CASEの時代や今後数十年を勝ち残るためのグリーンモビリティ戦略を構築する経営方針となるのだ。
(次回に続く)
著者プロフィール
早瀬慶
(EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 自動車・モビリティ・運輸・航空宇宙・製造・化学セクターコンサルティングリーダー)
スタートアップや複数の外資系コンサルティング会社での経験を経て、EYに参画。自動車業界を中心に20年以上にわたり、経営戦略策定、事業構想、マーケット分析、将来動向予測等に従事。
EYではAMM商用車チームリーダーとして商用車・物流業界を軸としたBtoB、BtoBtoCに関するコンサルティングサービスを提供すると同時に、産業の枠組みを超えたモビリティ社会の構築支援に注力。
近年は経済産業省、国交省、内閣府、東京都をはじめとする官公庁の商用車・モビリティ領域のアドバイザーを務めるとともに、スマートシティー等の国際会議のプレゼンター・プランナーとして社会創生にも携わる。
世界70カ国以上においてコンサルティングの経験を持つ。
主な著書に『モビリティー革命2030』(日経BP、2016年、共著)。他寄稿、講演多数。
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