工場のリモート対応は2022年も加速、映像活用拡大もネットワーク環境が課題に:MONOist 2022年展望(2/2 ページ)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以降、多くの業務のリモート化が進められてきたが、これまで「現地現物現実」が基本として徹底されてきた製造現場でも部分的にリモート対応を取り入れる動きが広がってきた。2022年はこうした仕組みの整備が進み、さらにより広く取り入れられる見込みだ。
リモート対応で広がる映像の活用
こうしたリモート対応が広がる中で、今後重要性がさらに高まると見ているのが「映像の活用」だ。製造現場において「現地現物現実」が最重要視されてきたのは、人がセンサーとして非常に優れているからで、このセンシング機能をフル活用するために、まずは現地で現物を見ることで捉えられるものがあるからだった。これを補うために、期待されているのが映像技術というわけだ。
装置や機械の稼働情報や生産情報などの定量化できるものや、トラブルの起こりやすい箇所や要因が特定できているのであれば、関連箇所にセンサーを取り付ければ精緻なデータ取得による課題解決が可能だ。しかし、多くの工場で頭を悩ませているのは、要因が特定できない不具合やチョコ停などである。要因が特定できない状況では、現在の工場内に設置されているセンサーの情報を分析するだけでは取りこぼしている情報があるかもしれず、根本的な解決に結び付けることが難しい。
そこで、映像情報や音声情報などの非構造化データを活用しようという動きが高まっている。単純に工場内の各所にカメラやマイクを設置し、それを専門家が見て判断するというものなどに加えて、現在はAI(人工知能)の進化により、映像データからさまざまなデータを抽出することが可能となっている。これらにより、個々のセンサーデータでは取りこぼしている問題要因箇所の特定などに使えるケースも増えてきている。要因が特定できれば、さらに精緻な情報は専門のセンサーを付けるなどの対応が可能となり根治につなげられる。これらの非構造化データの活用がさらに広がれば、人を現地で送るのと同様の「兆し」をデジタルデータでも捉えられるようになる。まだまだ人の感覚の全てを補うのは難しいが、2022年はより洗練された形で工場での映像活用が広がりカバーできる範囲が広がると見ている。
課題となる工場のネットワーク環境
一方で、こうしたリモート化を進める上で、大きな課題となりそうなのが、工場内のネットワーク環境である。もともと工場は制御ネットワークなどはあるものの、閉じたネットワーク環境が前提となっており、通信容量もそれほど大きくはない場合が多い。こうした中で、映像情報など大きなデータ通信を活用しようとして、ネットワーク性能がボトルネックとなり頓挫するケースが増えてきている。
ただでさえ、スマート工場化の流れから、自律型AGVなど通信を利用する機器が増え続けている状況だ。工場内にはネットワークの専門家は不在のケースも多いが、リモート化の動きが今後も進むことを考えれば、工場内ネットワークの整備についても避けられない状況が生まれている。大手の工場などでは、これを機にローカル5Gなどの将来技術も含めて、工場内ネットワークのロードマップを再整備する動きなども生まれてきており、2022年はこうした動きがさらにより多くの企業で広がるだろう。
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