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カシオが電子キーボードの鍵盤構造の変更にCAEを活用、その効果と展望CAE活用事例(4/4 ページ)

電子楽器開発で40年以上の歴史を誇るカシオ計算機は、グリッサンド奏法の操作性を維持するために採用してきた旧来の鍵盤構造を見直すべくCAEを活用。新たなヒンジ形状を導き出し、作りやすい鍵盤構造を実現することに成功した。その取り組み内容とCAE活用の展望について担当者に話を聞いた。

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設計者はCADと同じようにツールとしてCAEを使ってほしい

 以上のような製品改善活動に対して、CAEによるフロントローディング、設計者CAEを推進するカシオだが、全品目でのCAE活用の展開は、品目縦割り構造を廃止した数年前から急速に進んできたものだという。「以前から品目ごとにCAEの活用やノウハウの蓄積はあったが、あくまでも品目ごとの取り組みでしかなかった。そうした旧来の組織構造が廃止されて以降、各品目で培われてきたCAEの活用ノウハウなどが集約され、全品目へ水平展開しやすい状況になってきた」(遠藤氏)。

カシオ計算機 技術本部 機構開発統轄部 機構技術開発部 リーダーの遠藤将幸氏
カシオ計算機 技術本部 機構開発統轄部 機構技術開発部 リーダーの遠藤将幸氏

 中でも、アナログ的なモノづくりの要素を多く含む電子楽器の開発では、他の電子デバイス開発などと比べてCAEの取り組み自体は後進であったが、CAEの全社推進以降、急速に導入が進み、今ではさまざまなシーンでCAEによる解析が活用されている。今回の新たなヒンジ形状、鍵盤構造の改善もそうした流れを受けての取り組みだといえる。

 このようなCAEの全社推進、水平展開を担っているのが遠藤氏率いる解析チームであり、設計者自らが解析する方がその効果を最大化できるとの考えから、CADと同じようにツールとしてCAEも使ってもらうために、設計者CAEの啓蒙(けいもう)や教育にも注力しているという。

 特に、若手設計者は積極的だとし、遠藤氏は「以前はたくさん試作できる時代もあり、今『ベテラン』といわれている設計者たちは、そこから多くの経験を積むことができた。しかし、現在は試作できる回数も限られており、1機種の開発で数回程度しか実機ベースでの検証ができない。若手の設計者がより多くの経験を積むためにも、CAEを用いたデジタルの検証は非常に良いアプローチ、教材だといえる」との考えを示す。

 また、CAE活用は若手設計者の教育だけではなく、ベテラン設計者やデザイナーとのやりとりにおいても効果を発揮しているという。CAEの解析結果に基づく根拠があることで、経験や勘、通例、こだわりといった部分の見直しをかける際、建設的な議論が可能となり、「お互いに納得感をもって改善に取り組めるようになった」(赤石氏)とする。

カシオ計算機 技術本部 機構開発統轄部 第二機構開発部の赤石明人氏
カシオ計算機 技術本部 機構開発統轄部 第二機構開発部の赤石明人氏

デジタルでムダを省く、デジタルでより良い製品を作る

 カシオ全社におけるCAE活用はこの先もさらに進化していく。例えば、新たなヒンジ形状、鍵盤構造を確立した電子キーボード開発では、金型が出来上がって設計者が最初に確認するエンジニアリングサンプル(ES)の製作プロセスをデジタルに置き換えることを狙い、準備を進めているところだという。「ES段階だと品質がまだ不十分の可能性があり、せっかく実機で試験をしても問題点の切り分けが難しく、ムダな改造につながるケースも見られる。これを避けるために、ESを試作レス化してCAE上で確認するようにプロセスを変革していきたい」(遠藤氏)。

 さらに、電子キーボード/電子ピアノにとって重要なファクターであり、売れ行きを大きく左右する“弾き心地”の評価についても、従来の人手中心によるもの(官能評価)ではなく、デジタルの力で解決できないかと考えているという。

 遠藤氏は「弾き心地の評価は実機がないとできない部分であり、良い結果が得られず、いざ修正となると、金型の改造なども必要となり時間もコストもかかる。これら課題を解決するために、試作、評価、改善をデジタル上で実施し、ユーザーが求めている操作感をより追求した製品開発を進めていきたい」と思いを語る。

 そのため、現在、遠藤氏が率いる解析チームと赤石氏が所属する設計チーム共同で、鍵盤感性評価の数値化に取り組んでいるという。具体的には、各種センサーを用いて鍵盤の物理データを取得したり、評価者へのヒアリングなどを通じて鍵盤の弾き心地に関する因子を言語化したり、さらにはそれらの関係性などを導出したりなどしてデータや知見の蓄積を進めている。そして、「それらを基に、“弾き心地を予測できるアルゴリズム”を構築し、将来的には、CADで設計した3Dモデルの段階から弾き心地を確認、評価できる仕組みを作り上げることを目指している。また、こうした仕組みが実現できれば、鍵盤の弾き心地だけでなく、例えば、電卓のボタンの押しやすさや疲れにくさなど、他の品目への応用展開も期待できるのではないか」(遠藤氏)と展望を述べる。

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