デルタ株に特徴的な1つのアミノ酸変異がウイルスの病原性を増大させる:医療技術ニュース
国内の研究コンソーシアム「G2P-Japan」は、新型コロナウイルス「デルタ株」が従来株と比べて病原性が高いことを確認し、デルタ株に特徴的な変異P681Rが病原性の高さと関与していることを明らかにした。
東京大学は2021年11月26日、新型コロナウイルス「デルタ株(B.1.617.2系統)」が、従来株より高い病原性を示すことを発表した。この病原性の高さは、P681Rという1つのアミノ酸変異に起因していることが示唆された。東京大学医科学研究所附属感染症国際研究センター 准教授の佐藤佳氏が主催する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」の研究による成果だ。
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デルタ株のウイルス学的特徴を明らかにするため、まず培養細胞を用いて感染実験をした。その結果、従来株や他の変異株と比べてデルタ株の細胞融合活性は高く、大きな合胞体を形成した。
ハムスターにデルタ株を感染させた実験では、従来株とウイルスの増殖効率は変わらなかった。一方で、肺の炎症の程度を示すII型肺胞上皮細胞の割合が肺組織において増しており、病原性が高いことが示された。
また、細胞融合活性や病原性の高さの要因を明らかにするため、デルタ株のスパイクタンパク質に特徴的な変異の1つであるP681Rに着目。まず、P681R変異を挿入したスパイクタンパク質は、従来株のスパイクタンパク質よりも高い細胞融合活性を示すことが分かった。次に、P681R変異を持つ新型コロナウイルスを人工合成し、培養細胞に対する感染実験をしたところ、デルタ株と同様に高い細胞融合活性を確認した。
P681R変異を持つ新型コロナウイルスに感染したハムスターも、変異がないウイルスの感染と比べて明らかに肺機能が低下しており、肺における炎症も憎悪した。
これらの結果から、デルタ株は従来株と比べて病原性が高く、P681Rという1つのアミノ酸変異により高い病原性が再現されることが明らかとなった。
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