コロナ禍で加速するライブ中継の革新、ソニーのスイッチャーはなぜクラウド化したのか:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(19)(4/4 ページ)
2年ぶりのリアル開催となった「Inter BEE 2021」で注目すべきトレンドになったのが、従来ハードウェアでしか考えられなかった映像切替装置である「スイッチャー」について、大手各社がほとんど同時ともいえるタイミングでクラウド化に踏み切ったことだろう。その1社であるソニーのクラウドスイッチャー「M2 Live」の開発者に話を聞いた。
映像技術者とクラウド事業者の話がかみ合わない
―― 今回のInter BEE 2021で多くの方にM2 Liveを実際にご覧いただいていると思うんですが、お客さまの反応やフィードバックなどはいかがですか。
前川 私自身はまだ展示ブースに立っていないんですが、別の機会に伺った話では、キーボードショートカットはほしいと。そこで、キーボードショートカットで信号切替やトランジションということができるようにします。
また将来的には、何らかのハードウェアのパネルっていうのも対応していきたいと考えています。やっぱりハードのパネルは安心感もありますし、手元を直接確認せずに入力できるという優位性もありますので、キーボードショートカットでできない部分に関しては、必要になってくると考えています。
―― 映像業界では、いざクラウドを使っていこうということになっても、映像技術者がクラウド事業者さんと話をすると、向こうの言ってる意味が分からないということが往々にしてあるんですよね。誰か間に入って通訳してくれないと話がかみ合わないというか。
小貝 私もそれは常々思っていて。クラウド事業者さんがご用意されているのは、究極的な言い方をすると、ハードウェアプラスそこに乗っかっている幾つかのサービスなので。
例えば従来のファイルベースのシステムでいうと、サーバやストレージのような位置付けです。そこで何かお客さまがIPを使ったシステムでやりたいというときに、HDDのメーカーさんと直接話するんでしたっけ? っていうところがあって。
本当はそれを含めたソリューションを提供してくれる誰かに話をするというのが普通なんですけど、なぜかこのクラウドという観点においては、クラウド事業者さんに皆さん直接お話をされているような気がします。
それよりまず映像でこういうことをクラウドでやりたいっていう話を、ぜひともわれわれソニーだけではなく、パナソニックさんなど、そういうベンダー側に言っていただけると、より近道でお客さまがやりたいことに近づいていけるんじゃないのかなと思いますね。
実は2020〜2021年にかけて、スイッチャーを専用プロセッサではなく汎用のCPU/GPUベースで動かすというムーブメントが急速に起こった。パナソニックの「KAIROS」やソニーの「XVS-G1」といったスイッチャーは、多少アプローチは異なるものの、映像合成をCPU/GPUベースで行うシステムである。こうしたスイッチャーのソフトウェア化からクラウド化まで、極めて短期間で進行したのが今の映像業界の動きである。
今回のInter BEE 2021では、コロナ禍ということもあり、Amazon、Google、Microsoftといった海外の大手クラウド事業者が出展していなかった。クラウド側から見た風景が取材できなかったのは残念だが、逆に映像側を軸にしてクラウドを見ることができたことで、これまでの「クラウドよく分からん」問題が整理されたように思う。
COVID-19の感染者数が落ち着いてきたこともあり、感染対策としての出勤者数7割減という政府目標も撤廃の見通しだが、それこそライブ中継業務は出勤しないとどうにもならない業務であった。これがリモートでできるようになると、現在宮崎県宮崎市に住んでいる筆者も、スイッチング技術者として現場復帰する可能性も出てくる。
ライブ中継のクラウド化は、映像業界の働き方改革を実現する最短コースなのかもしれない。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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