脱炭素実現の鍵を握る「スコープ3」、排出量見える化のハードルは高い?:製造業×脱炭素 インタビュー(2/2 ページ)
脱炭素化に向けた各種施策を実行する企業が増えている。ただ製造業ではこれまでにも環境負荷軽減のための取り組みをさまざまに展開してきた。+αの一手として何を打つべきか。セールスフォース・ドットコムの鹿内健太郎氏に話を聞いた。
横並びに進めていけるのか
しかし現時点では、スコープ3算定の仕組みづくりがどのように進むかは未知数である。先述の通りスコープ3には、サプライヤーや輸配送企業などさまざまな企業が関与する。正確に排出量を算定するには、前提として、これらの企業全てが排出量データを集め、一元的に管理し、他社に情報共有するシステムを導入していなければならないだろう。現状を見る限り、こうした条件が整うには一定の時間を要するように思える。
また、データの取得方式の統一化や規格づくりなど業界のルール作りをどう進めるか、という問題も残されている。鹿内氏は「現時点で環境対策を推進する企業は、課題は認識しているが、まず可能な範囲で仕組みづくりを行おうと検討し始めている。これに関する大手企業間での横連携なども一部で出てきている。当社としても、例えば、他社の排出量に関する一次データを自社の既定フォーマットに沿って整理するツールなどを提供したいと考えている」と語った。
乗り気でない中小企業も多い
スコープ3算定に向けたもう1つの課題は、中小企業の対応だ。脱炭素に向けた取り組みには企業規模によって濃淡があるのが実情だ。セールスフォースが実施した調査では、国内の中小製造業の内、脱炭素化に「前向き」「どちらかというと前向き」と回答した企業は回答社の約21%にとどまったという。比較的規模の小さな企業や地方の製造業では、環境関連のデータ取得や管理を担当する専門部署がそもそも存在せず、これまで工場部門や調達部門が担当していることも珍しくない。場合によっては総務部門が兼務しているケースもある。
これについて鹿内氏は「『エコ』な取り組みや研究開発はどうしても長期的にコストがかかる。また時期的な問題で言えば、脱炭素の機運が盛り上がるタイミングが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックと重なってしまったことも大きい。市場環境を取り巻く大きな変化が脱炭素以外にいくつも起こっており、解決が先延ばしにされがちだ。取引中止のリスクがある以上、中小企業にとっても脱炭素は喫緊の問題である。排出量測定の取り組みを広める上では、業界団体や商工会議所からの働きかけも重要になるのではないか」と指摘した。
また鹿内氏は、製造業の環境対策に対するセールスフォースのスタンスについて「当社はシンクタンクでも、環境技術そのものを開発する企業でもない。ただ、ツールの提供と、運用、管理、データ開示までを自動化するフロー構築などは行える。これを企業の売り上げやブランド力向上につなげていく、といった形で支援する」と語った。
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