遠距離からのサイズ計測を単眼カメラの画像だけで実現、東芝が世界初のAI技術:人工知能ニュース(2/2 ページ)
東芝がズームレンズを用いた単眼カメラによって複数枚の画像を撮影するだけで実スケールの3次元計測ができる「世界初」のAI技術を開発。インフラ点検などで、高所や斜面など危険で点検が困難な場所に近づくことなく、一般的なデジタルカメラとズームレンズで離れた場所から写真を撮影すれば、補修対象部分のサイズを計測できるようになる。
単眼SfMとレンズ収差AIを組み合わせ
今回開発したサイズ計測AIは、スマートフォンのサイズ計測アプリに用いられている単眼SfMとレンズ収差AIを組み合わせることで、ズームレンズなどで長距離から撮影した単眼カメラの画像を用いて、長さ、面積、体積などのサイズを計測できるようにした技術である。2つの技術の組み合わせによって、スマートフォンのサイズ計測アプリで必要だったジャイロセンサー、レンズ収差AIで必要だった撮影距離でのレンズ物理特性の事前学習が不要になった。
具体的には、単眼SfMに基づく多視点画像から得られる奥行き情報と、レンズ収差AIによる撮影画像のボケ情報を入力として、スケール情報と焦点距離を未知パラメータとする最適化問題を解くことで、撮影画像だけでサイズの絶対値を得ている。
実際にあるひび割れの計測に開発したサイズ計測AIを適用した場合、近距離(1.5m)でも遠距離(7m)でも高い精度でサイズを計測できることを確認した。また、屋外の11カ所で5〜7m先の対象物のサイズを計測したところ、レンズを固定した理想条件でサイズ誤差が2.5%だったのに対して、ズームレンズを使ったより難しい条件でもサイズ誤差が3.8%に抑えられたという。
そして、サイズ誤差が3.8%の条件で日本コンクリート工学会が定めるコンクリートのひび割れ補修指針に基づいた数値シミュレーション(ひび割れは画像上で正確に検出できると仮定)を行ったところ、97%の精度で補修の必要性を判別できることが分かった。
この他、クラックスケールと呼ばれるツールを使って計測する細かいひび幅についても接写によって高精度に計測できた。従来は困難だった、高所壁面のひび割れやパイプなど曲面上のさび面積の計測についても妥当な結果が得られているという。
今後は、スマートフォンや産業用カメラ、ドローンなど、さまざまななレンズと単眼カメラを用いた実証を進めるとともに、老朽化が進む国内のさまざまなインフラの保全作業を効率化する保守点検アプリケーションやシステムへの組み込みを検討していく。なお、AIアルゴリズムの規模や処理負荷としては、スマートフォンに組み込めるレベルであり、最適化を進めればエッジAIとしてカメラ機器に組み込むことも可能だとしている。
サイズ計測AIの詳細については、コンピュータビジョンの国際学会「BMVC(The British Machine Vision Conference)2021」で2021年11月22日に発表される予定だ。
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