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予知保全は「いつもと違う」では不足、東芝の新AI技術は「なぜ違うか」も分かる人工知能ニュース(1/2 ページ)

東芝は、測定した時系列データから対象となる機器の状態や動作を表現する物理モデルを自動で生成し、機器の「異常検知」に加え、従来は困難だった「異常発生の原因」となった物理現象を提示できるAI技術を開発したと発表した。

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 東芝は2021年11月5日、測定した時系列データから対象となる機器の状態や動作を表現する物理モデルを自動で生成し、機器の「異常検知」に加え、従来は困難だった「異常発生の原因」となった物理現象を提示できるAI(人工知能)技術を開発したと発表した。同技術をパワーモジュールの温度予測に適用したところ、自動生成した物理モデルが平均誤差1℃未満で温度を高精度に予測できるとともに、リアルタイムでの予知保全も可能な処理負荷の小ささを実現できたという。今後は、社会インフラ関連製品やシステムへの適用範囲の拡大と有効性の検証を進め2023年度の実用化を目指す。

 IoT(モノのインターネット)やAIの進化によって予知保全の高度化が期待されており、既に航空業界などでは年間の保全コストを数分の1にしたという事例もある。予知保全の市場規模は2016〜2026年の年平均成長率が31%となり、2026年には約300億米ドルに達するという予測もある。

期待が高まる予知保全
期待が高まる予知保全[クリックで拡大] 出所:東芝

 この予知保全では、機器の正常な状態のセンサーデータなどを機械学習した上で、運用している間に故障や機能停止につながる“いつもと違う”異常な状態を検知するという手法が主流になっている。この場合、さらに各センサーデータの影響度から、どのセンサーが“いつもと違う”のかを見定めて異常の原因を追究し、対処することになる。東芝 研究開発センター 知能化システム研究所 機械・システムラボラトリー スペシャリストの鈴木智之氏は「東芝注力しているインフラ機器の場合、この異常発生メカニズムが複雑なことが多く、単なる『いつもと違う』という情報だけでは、異常への対策を的確に立案できないことも多い。そこで必要になるのが『なぜ違うか』を説明するためのデジタルツインとなる物理モデルだ」と語る。

予知保全における従来技術の課題
予知保全における従来技術の課題[クリックで拡大] 出所:東芝

 従来、このような解釈性の高い物理モデルは、熟練技術者が専門知識やノウハウを基に作成していた。しかし、作成者ごとに出来上がる物理モデルが異なったり、作成に時間がかかったりといった課題があった。今回開発したAI技術は、予知保全の対象となる機器から得た時系列データと独自のアルゴリズムを用いてこの物理モデルを自動生成することでこれらの課題を解決するものだ。

開発技術は解釈性の高い物理モデルを自動生成できる
開発技術は解釈性の高い物理モデルを自動生成できる[クリックで拡大] 出所:東芝

 自動生成される物理モデルは、データ項目の相関がネットワークで表現され、項目間の関係性が物理学や工学に基づく関数の組み合わせによって表される連立方程式となっている。開発技術の中で重要な役割を果たしているのが、3つの独自AIアルゴリズムと関数候補DB(データベース)だ。3つの独自AIアルゴリズムは、膨大にある関数候補から正しい組み合わせを選択し優れた解釈性を実現するための「スパース推定アルゴリズム」と空間探索アルゴリズム」、効率的な係数推定で高精度な予測につなげる「データ拡張アルゴリズム」から成る。関数候補DBについては、東芝が長年培った機械工学の知識に基づいてデータベース化されており、複雑な現象にも対応可能だという。

3つの独自AIアルゴリズムと関数候補DBが重要な役割を果たす
3つの独自AIアルゴリズムと関数候補DBが重要な役割を果たす[クリックで拡大] 出所:東芝

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