三菱重工が機械システム知能化基盤「ΣSynX」を展開、新領域拡大で手応え:製造マネジメントニュース(2/2 ページ)
三菱重工業が2021年度第2四半期決算と、2021〜2023年度の中期経営計画「2021事業計画(21事計)」の進捗状況を発表。2021年度上期業績はコロナ禍からの回復が進んでおり、21事計についても「一言で言って順調に進捗している」(三菱重工 社長 CEOの泉澤清次氏)という。
「ΣSynX」では機械の特性をよく知る三菱重工の強みを生かす
「成長領域の開拓」は、脱炭素に対応する「エナジートランジション」と「モビリティ等の新領域」で取り組みを進めており、2023年度目標として売上高1000億円を掲げている。「エナジートランジション」では、米国、欧州、アジア、日本など各地域のニーズに合わせて全産業の脱炭素化に貢献していく方針。そのための施策が「既存インフラの脱炭素化」「水素エコシステムの実現」「CO2エコシステムの実現」である。
これらのうち「既存インフラの脱炭素化」では、石炭や石油からの燃料転換が各地域で求められており、そこに同社のデジタル活用ソリューション「TOMONI」を組み合わせて、CO2削減ソリューションを提案していく。泉澤氏は「2021年度の脱炭素化ニーズは前年度比で約5倍に急拡大している」と強調する。
また、国内CO2排出量の4分の1を占める石油化学、製紙、製鋼、セメントなどの産業分野では、自家発電設備を再生可能エネルギー由来の電力に切り替える際に、ボイラーによる熱や蒸気の供給ができなくなるという課題がある。三菱重工は、天然ガス転換からガスタービン置換、水素・アンモニアなどへの燃料代替により、既存の電力と熱、蒸気の供給システムを維持しながら脱炭素を実現できる提案を進めていく。
「モビリティ等の新領域」は、2020年10月の21事計発表時よりもさらに事業化の形が具体化された。中核となるアプローチは、同社が得意とするコンポーネントの高度化と、機械システムの知能化プラットフォーム「ΣSynX(シグマシンクス)」の活用だ。
ΣSynXは、つなぐ、知能化する、最適化するのプロセスで機械システムの知能化を目指すもので、三菱重工以外の機器やシステムとも連携できることを特徴としている。泉澤氏は「機械を作っていている当社は、機械の特性をよく知っており、機械のモデリングやシミュレーションの知見やノウハウも多数保有している。これらとネットワーク、AI(人工知能)などの制御を結び付けるところにアドバンテージがあると考えている」と説明する。
ΣSynXを活用した展開を進める分野としては、2020年10月時点でも言及していた物流自動化・コールドチェーンに加えて、電化コンポーネントのデータセンターへの活用、CASE(コネクテッド、自動運転化、シェアリング/サービス、電動化)化を支えるインフラとしての自動運転検証サービスなどが挙がっている。
また、2040年のカーボンニュートラル宣言では、自社グループのCO2排出削減を2030年に2014年比で半減、バリューチェーン全体を通じた社会貢献によるCO2排出削減を2030年に2019年比で半減させ、2040年にはカーボンニュートラルとなるネットゼロを達成する計画だ。自社グループのCO2排出削減では、省エネ/自社技術/脱炭素電源の導入を自社工場に先行して導入し、カーボンニュートラル工場を実現していく。「自社工場での成果を顧客に展開するためにも、カーボンニュートラル工場に向けた取り組みは意欲的に進めたい」(泉澤氏)としている。
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