パナソニック新潟工場の現場を変えた、たった4人の「からくり改善」【前編】:メイドインジャパンの現場力(31)(2/2 ページ)
たった4人で始めた同好会からスタートし、「からくり改善」により次々に成果を生み出しつつあるのが、パナソニック エレクトリックワークス社 新潟工場である。同社の「からくり改善」を活用した現場改善への取り組みを紹介する。
「からくり改善」が製造現場にもたらす意味
徳吉氏が感じていた「からくり改善」の役割は「人手」と「ハイテク」の間を埋めるというものだ。先進技術を用いた自動化によるモノづくりは大きな流れだが「自動化が進む」ということは基本的には作業を全て機械に任せるということだ。その機械が高度化すればするほど、それらが止まったり壊れたりした場合の影響は大きくなり、さらにこれらを直すことも現場の担当者だけでは難しくなる。そのため、保全の負荷なども高まる。一方で全てを人手で行う属人的な環境では、人手不足やコロナ禍によるソーシャルディスタンスが要求される現在の状況に合わなくなっている。
徳吉氏は「ハイテクなモノづくりと、人手によるモノづくりの間を埋めるものがあると考えていた。複雑で高度な機械を導入するのではなく、簡単で現場でも簡単に直せる半自動化のようなことができれば現場の可能性も広がる。『からくり改善』のように、簡単で動力を使わない設備であれば、万が一壊れたとしても外して人が代わればよい。費用も抑えられ、従来は自動化できなかったところも簡易的に自動化できる」と価値について述べている。
また、現場の従業員のモチベーションなどの問題もあったという。「活動のきっかけとなった職長からの相談では、モノづくりに向ける気持ちの問題があった。モノづくりのハイテク化が進めば進むほど、製造する製品よりも製造設備への対応に時間が取られることになる。製造をしているのか設備のお守りをしているのか分からない状況になる。現場独自の工夫で製品を作る気持ちを見直すためにも『からくり改善』には意味があると考えていた」と徳吉氏は役割について語る。
新潟工場からパナソニック全社の「からくり改善」へ
活動当初は苦しい状況を抱えながら進めてきた「からくり改善」への取り組みだが、徐々に活動の成果が実際の製造現場などでも見られるようになり、さらに社外でも賞を受賞するようになってきたことから、評価を得られるようになってきた。
パナソニック エレクトリックワークス社 新潟工場では2018年から「からくり改善くふう展」に参加しているが、いきなり「協会特別賞」を受賞。その後2019年度は「努力賞」、2020年度は「アイデア賞」を受賞し、3年連続で入賞となっている。
これらの実績を積む中で、当初は業務時間に含まれない「同好会」としての活動も、業務に含まれる「分科会」へと格上げされた。さらに新潟工場におけるからくり勉強および活動の拠点として2019年1月に「からくりルーム」を設置。2020年8月にはさらにこの設備も拡張され、活動領域を広げている。
パナソニックの中で「からくり改善」にいち早く取り組み始めたのは、パナソニック くらしアプライアンス社で、パナソニック全体の「からくり改善」についての窓口も同社が担っている。ただ、パナソニック エレクトリックワークス社 新潟工場での「からくり改善」は、次々と実績を拡大してきたことから、2018年にはライティング事業部内での横展開を開始した。2020年にはさらに規模を広げ、パナソニック エレクトリックワークス社全体での水平展開を始めた。さらに2021年にはPLS創研と協力し社内の研修および講師派遣の制度を開始している。現在はパナソニックの社内カンパニー同士の情報交換や「からくり改善」の導入支援なども進めており、パナソニック全社での「からくり改善」の活動を推進する原動力となってきている。
今後はさらにこの活動を広げ、定着させていく方針だ。「2021年度から開始したからくり研修は既に11人が受講予定だ。これを5年後にはエレクトリックワークス社全体で定着させたい。そして10年後にはパナソニック全体で定着させ、年間100人単位でからくり研修の受講生を生み出し続けられるようにしたい。同時に『からくり改善』装置の導入促進も行い、こちらもパナソニック全体で定着させていく。年間50台程度の導入が続くようにしたい」と徳吉氏は今後の抱負について述べている。
後編では、具体的にパナソニック エレクトリックワークス社 新潟工場での「からくり改善」装置とその役割について紹介する。
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