経年劣化にも対応する「リアルタイム学習AI-PID制御」、エイシングが特許取得:人工知能ニュース
エイシングは、PID制御を飛躍的に高度化できる「リアルタイム学習AI-PID制御」に関する特許を取得したと発表した。PID制御にAIアルゴリズムに基づく予測器を組み合わせる「AI-PID制御」に対して、制御対象の経年劣化などによって起こり得るAIアルゴリズムの予測精度低下を防ぐための追加学習を行える仕組みが特許取得の対象となる。
エイシングは2021年10月12日、温度やモーターの制御などに用いられているPID制御を飛躍的に高度化できる「リアルタイム学習AI-PID制御」に関する特許を取得したと発表した。PID制御にAI(人工知能)アルゴリズムに基づく予測器を組み合わせる「AI-PID制御」に対して、制御対象の経年劣化などによって起こり得るAIアルゴリズムの予測精度低下を防ぐための追加学習を行える仕組みが特許取得の対象となる。同社が開発した軽量の木構造のAIアルゴリズム「MST(Memory Saving Tree)」を用いることで、AI-PID制御のリアルタイム学習が可能になるためリアルタイム学習AI-PID制御と名付けた。
PID制御は、生産設備の制御に広く用いられており、工場やプラントからIoT(モノのインターネット)によってデータを収集するスマート化の対象となることが多い。実際に、PID制御に関わる時系列データに基づく状態監視などの“見える化”の取り組みが進みつつある。
この見える化から、さらにスマート化を進めるのがPID制御へのAIの適用である。PID制御は、誤差が発生してから制御量を後追いで調整するフィードバック制御である。このため、急激な外乱などの影響を避けることが難しく、その収束までに時間がかかるという課題がある。そこで、急激な外乱にも対応可能な制御を先回りして行うフィードフォワード制御という手法があるものの、制御モデルを別途構築する必要があった。この制御モデルの構築にAIを適用するのがAI-PID制御である。
AI-PID制御に適用するAIアルゴリズムの構築では、制御対象となる機器の運用当初のデータを用いることになる。しかしここで問題になるのが機器の経年劣化である。多くの制御機器は10年以上の長期利用が前提となっており、モーターや軸受、グリスなどの潤滑剤をはじめさまざまな機械要素はその期間で経年劣化を起こす。この経年劣化によって、運用当初の古いデータに基づくAIアルゴリズムの予測精度も低下してしまう。予測精度を保つには、経年劣化した状態の新しいデータを用いてAIアルゴリズムの追加学習を行わなければならない。しかし、深層学習をはじめとする現行の一般的なAI技術の場合、学習に求められるリソースが大きいこともあり、クラウドや専用サーバなど別途の機器を用いて改めて学習を行い、得られたAIアルゴリズムを再度実装する必要があった。
これに対して、エイシングのMSTをはじめとする木構造のAIアルゴリズムは、Cortex-M0+などのローエンドマイコンでもリアルタイムに追加学習を行えることが特徴となっている。AI-PID制御のAIアルゴリズムについて、制御機器を運用しながら学習を行って予測器の精度劣化を防ぐことが可能だ。
今回特許を取得したリアルタイム学習AI-PID制御では、MSTのような軽量のAIアルゴリズムによる追加学習を効率よく行うためのデータ収集の仕組みを組み込んでいる。「当社のAIアルゴリズム以外にも適用できる広範な特許になった。発想はシンプルだが、軽量AIアルゴリズムを手掛けてきた当社だからこそ特許化できたと自負している」(エイシング 社長の出澤純一氏)という。
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