知財活動を社員に「わがこと化」してもらうための組織づくり:ベンチャーに学ぶ「知財経営の実践的ヒント」(2)(1/2 ページ)
貧困解決を目指すFinTechサービスを支える技術(IoTデバイスとプラットフォーム)を保有し、知財ポートフォリオ形成による参入障壁構築を進めるGlobal Mobility Service。同社の知財戦略と知財活動からビジネス保護に使える知見を紹介する。第2回では知財活動を社員に身近に感じてもらうための組織作りの考え方を取り上げる。
連載第1回となる前回は、経営の根幹に据えた知的財産(知財)戦略の概要についてご紹介しました。今回は「コミュニケーションを重視した知財活動」を取り上げさせていただきます。
⇒連載「ベンチャーに学ぶ『知財経営の実践的ヒント』」バックナンバー
筆者が所属するGlobal Mobility Serviceでは社員が知財活動を身近に感じるために、コミュニケーションを重視した取り組みを社内で行っております。具体的には(1)知財の組織体制、(2)社員が知財を身近に感じる社内風土の醸成、(3)当社独自の取り組み(知財フリートーク)の紹介をさせていただきます。
知財部門を「コミュニケーション本部」に設置
まずは当社の知財活動に関する組織体制を紹介します。第1回で説明したように、当社は会社設立時から知財戦略を経営の根幹に据えて、権利の取得を推進してきました。現在では経営/現場を一気通貫した知財活動を実行できるように、コミュニケーション本部に知財担当グループを設置しています。
コミュニケーション本部は「人事・総務」「広報・IR」「知財」という3つのグループを包括しており、各グループ間でのコミュニケーション活動促進を通じて、全社的に連携の取れた企業活動の実現を目指す部門です。多くの企業では、R&D部門や管理部門、生産/技術部門、事業部門などに知財の機能を持たせるケースが見受けられます。これに対して当社のような組織体制をとると、IR活動に対しても知財部門が関与しやすく、また各種ステークホルダーと対話を行う中でも知財情報を活用しやすいというメリットがあります。
具体的には、人事と連携した知財枠でのインターン採用、総務と連携した特許証などの社内掲示、広報・IRとの連携では知財活動の対外的な情報発信などを行っています。特許庁主催のIP BASE AWARDで受賞した際にはプレスリリース配信などを行いました。
※1:当社は特許庁の知的財産権アワードの第2回「IP BASE AWARD」で奨励賞を受賞した。
社員が知財を身近に感じるようにするために
なぜコミュニケーション本部に知財機能を持たせたのか。それは当社が知財活動を行う上で「社員が知財を身近に感じる社内風土」の醸成を大切にしているからです。
読者の皆さまの会社でも知財と聞くだけで、「自分には関係がなさそう」という印象を持つ社員が多いのではないでしょうか? このように知財をわがことではないと感じられてしまうと、知財活動に興味や関心を持ってもらえず、知財部門と他部門の社内コミュニケーションに障害が生じる可能性があります。
しかし、先ほど当社内の取り組みとして紹介したように、知財活動は他部門との連携次第でその活動範囲や規模を広げることができます。私は大小や濃淡あれど、社内の全業務に知財はひっそりと関わっているものと考えています。そうであるならば、自社の知財活動に対して社員から興味を持ってもらえない状況はもったいないといえるでしょう。そのため、社員に「自分の業務に知財はどう関わっているのだろう」と知財への興味関心を持ってもらえる社内風土を醸成することが大切なのです。
それを実現するために当社では、図2に示すように、「経営」「経営・現場」「グローバル拠点」を対象に、各会議体や、社内掲示、Slack(チャットツール)などを通じて情報共有を行っています。特に、新たに権利を取得した案件の特許証や登録証をSlackで全社に共有する方法は、社内コミュニケーションを効果的に活性化します。中小企業やスタートアップの取り組みとしておすすめです。
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