IoT技術を活用し貧困解決を目指すFintechベンチャーが知財を重視する理由:ベンチャーに学ぶ「知財経営の実践的ヒント」(1)(1/2 ページ)
貧困の社会課題解決を目指すFinTechサービスを支える技術(IoTデバイスとプラットフォーム)を保有し、経営の根幹に知財を据え知財ポートフォリオ形成による参入障壁の構築を進めているGlobal Mobility Service。同社の知財戦略から中小企業・ベンチャー企業のビジネスを保護するために必要な知財権取得のヒントを紹介する。
読者の皆さまはじめまして。「金融包摂型」FinTechベンチャーGlobal Mobility Serviceで知財戦略の責任者を務める高橋 匡(たかはし ただし)と申します。MONOistの読者にとって「FinTechベンチャー」とは、なかなかなじみが薄いかもしれません。ただ当社ではIoT(モノのインターネット)デバイスの開発も行っており、連載では特にこの点についてお話ししたいと考えています。
3回にわたる本連載では、知的財産のビジネス活用を目指す中小企業・ベンチャーの皆さまに参考となる実践的な知財活動のヒントを紹介したいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。第1回は「競争優位性を確保するための知財戦略のヒント:知財ポートフォリオ形成による参入障壁の構築編」、第2回は「知財を活用したビジネス機会創出のヒント:社内コミュニケーション編」、第3回は「知財を活用したビジネス機会創出のヒント:社外コミュニケーション編」について紹介させていただきます。
はじめに、私たちが取り組む事業概要を紹介いたします。当社は、「真面目に働く人が正しく評価される仕組みを創造する」というビジョンを掲げ、2013年に創業した金融包摂型FinTechサービスを提供しているベンチャー企業です。FinTechとは、金融分野のサービスに先進的な技術を結び付ける動向を指す言葉で、従来解決の難しかった金融関連課題に取り組む動きも多く見られます。
IoTデバイスで自動車のエンジン起動を制御
当社のFinTechサービスは、車があれば真面目に働くことができるのに、自動車ローンを組めずに車を所有できないためにそれが叶わない低与信の利用者が、金融機関からローンを受けられるというものです。こうした取り組みを通じて、貧困などの社会課題解決を目指しています。
この目標に向けて当社が活用しているのがIoTデバイス”MCCS”です。当社が独自開発したデバイスで、これを車両に搭載して車両の運行状況をモニタリングすることで、必要に応じて車両のエンジン起動を遠隔で安全に制御します。また、MCCSと接続することで車両の運行状況を可視化できるプラットフォーム“MSPF”も開発しました。特徴的な機能として、MSPFは金融機関のシステムとオープンAPIを通じて連携でき、加えて、利用者の働きぶりに関する情報の可視化にも対応します。
MCCSとMSPFを活用することで、万が一、利用者のローン返済に遅延が生じた場合には公道ではない安全な場所で車両のエンジン起動を遠隔で制御し、支払いを促すことが可能となります。その後、支払いが完了した時点で遅滞なく、速やかに起動制御を解除します。これによって、利用者が再び車を利用して働く環境づくりを支援しています。
このMCCSとMSPFの技術を活用したFinTechサービスを受けることにより、金融機関は、これまで与信審査で通過させることができなかった利用者に対し、ファイナンスを提供することが可能となり、低いデフォルト(債務不履行)率を実現しています。また、ファイナンス提供後、蓄積された利用者の働きぶりに関する情報を活用することで、新たな与信を生み出すことが可能となります。
真面目に働けば働くほど、新たなファイナンスの機会が提供され、利用者を低所得者層から中間層に押し上げて、利用者やその家族を幸せにしていくような新しいビジネスモデルに取り組んでいるのです。なお、当社は、フィリピン、カンボジア、インドネシア、日本で事業展開しており、累計約1万3000人を超える方にサービスを利用いただいております。
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