ホンダが「空飛ぶクルマ」、ガスタービンのシリーズハイブリッドで航続距離4倍に:研究開発の最前線(3/3 ページ)
本田技術研究所は2021年9月30日、新領域の技術開発の取り組みを発表した。公開したのは「eVTOL(電動垂直離着陸機)」「多指ロボットハンド」「循環型再生エネルギーシステム」の3つだ。“ホンダのコア技術”と位置付ける燃焼、電動化、制御、ロボティクスの技術を活用する。
ホンダはASIMOでも多指ロボットハンドを開発したが、ASIMOの指は力を出せる範囲が狭かった。2代目ASIMOは両手で1kg弱のモノを持てたが、片手では300g程度しか把持できなかった。「その場にいなくても自然に作業や体験ができる」というレベルには届いていなかった。
ASIMOと現在開発中の多指ロボットハンドで異なるのは、ハードウェアの進化だ。「センサーのデータを細かいサンプリングタイムでとることが、細かな制御の秘訣になる。制御のアルゴリズムをCPUではなくFPGAで専用のロジックで処理できることも実現に寄与する。安定して把持すること自体はASIMOの時からできていた。ただ、当時のハードウェアでは手として使いこなせる範囲が狭かった。ASIMOの手の大きさでできることの限界もあった。デバイスの進化によって、繊細さから力強さまで対応できるロボットハンドになる」(本田技術研究所の開発者)。
また、目的がアバターロボットへの搭載なので、5本指であることも引き続き重視する。グリッパーのようなロボットハンドがこなせる作業もあるが、人の手の形だからこそ少ない手数で作業できることも多い。人と同じように作業するには、手の形も人と同じ方が適しているという。
遠隔操作で自然な操作性を実現するには幾つかの課題がある。把持動作のうち、どんな手の形でモノを持つかという「計画」の工程はロボットにもこなせるが、手を伸ばしてモノをつかむときに画像認識では距離が分かりにくい他、しっかり落とさないように持っているかどうかの判断が難しい。
これに対し、何を持とうとしているかの意図理解、3次元計測を用いた位置補正、ロボットハンドが持ちたいモノをつかめているかを把握するための接触状態の推定、モノの位置がずれることも考慮したそれぞれの指の力のバランス補正などの制御技術を取り入れることで、難しい動作もロボットハンドで行えるようにする。決まった条件のみでロボットに制御を学習させた場合、モノの置き方や置いてある場所の変化に対応することが難しくなるため、AI(人工知能)によって柔軟に操作をサポートする。
小型ロケットは若手の発案でスタート
宇宙領域は「ホンダのコア技術を生かした、夢と可能性への新たなチャレンジの場」と位置付けている。JAXAと共同研究する循環型再生エネルギーシステム以外にも、細かな作業が行える多指ロボットハンドを持つアバターロボットも宇宙領域で貢献すると見込む。2021年2月から、通信遅延が発生する環境での遠隔操作の共同研究をJAXAと開始した。JAXAの宇宙探査イノベーションハブにおける研究テーマとして採択されている。
小型ロケットは、燃焼技術や制御技術など、さまざまな製品開発で培ったコア技術を生かしたいという若手エンジニアの発案でスタートした。低軌道向けの小型人工衛星の打ち上げを目標に開発を進めているという。気象観測や広域通信などさまざまな用途で人工衛星が求められているが、需要に対してロケットが不足しており、課題解決に貢献したい考えだ。自動運転車などで培った制御や誘導の技術を生かして、打ち上げ後にロケットの一部を着陸させて再利用することを想定した研究も行う。
現在はフィジビリティスタディーの段階で、小型ロケットのレイアウトや射場など具体的な項目は決定していない。射場については米国が有力だという。
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