ブラザー工業が実践するボトムアップ型CAEによる経営貢献に向けた取り組み:CYBERNET Solution Live 2021(4/4 ページ)
サイバネットシステム主催「CYBERNET Solution Live 2021」の基調講演にブラザー工業 開発センター 技術革新部 岩田尚之氏が登壇し、「ブラザー工業のCAE これまでとこれから 〜経営に貢献する基盤技術を目指して〜」をテーマに、ボトムアップ型CAEによる経営貢献に向けた取り組みについて紹介した。
新規事業/新規商材創造へのチャレンジ
続いて岩田氏は、ここまで紹介してきたCAEによる経営貢献への取り組みなどを通じて培ってきた技術を、既存事業ではなく、新規事業/新規商材創造にも活用したチャレンジ事例について説明した。
その1つが、オフィスのデスクといったパーソナルな空間で、マイクロ飛沫などを吸引し、きれいな空気を届けることをコンセプトにしたパーソナル空間向け小型空気清浄機「DF-1/DF-2」の開発だ。既存事業の問題解決で培った計測/CAE技術を活用することで、設計者は“提供すべき価値の実現”に集中できるようになり、超短期間で同製品を開発することに成功した。具体的には、設計仕様が確定する前段階からCPS基盤技術を活用し、初期コンセプトモデルを用いた流れの可視化や、流体シミュレーションを駆使した設計、作り込みを行ったという。
その他、レーザープリンタ開発で培ったエアフロー設計のノウハウを活用して、3D解析(冷却システム)/2D解析(システム全体の確認)を用いた並行開発で短期製品化を果たした排熱レス&フロンレススポットクーラー「Pure Drive」や、樹脂材料の品質設計と工作機械向けCPS基盤技術を応用し、同社初となる車載設計に挑戦したフォークリフト用スポットクーラーの開発事例を取り上げた。
サーキュラーエコノミーの実現に向けて
また、今後に向けた活動として、同社の「環境ビジョン2050」および「2030年度中間目標」の中で推進しているSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みに向けて、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現にも関わっていくという。
岩田氏は、サーキュラーエコノミーをビジネスに応用する方法として、「再生型サプライ」「回収とリサイクル」「製品寿命の延長」「シェアリング・プラットフォーム」「サービスとしての製品」の5つを挙げ、そのうち、これまでの材料理解の経験が生かせる「再生型サプライ」「回収とリサイクル」「製品寿命の延長」の3つをメインスコープに据え、これらについても材料理解が最重要であるとし、CAEによる経営貢献の活動で適用してきたサイクルを当てはめて推進していくとする。
「サーキュラーエコノミーの実現に向けて、リサイクル材料や植物由来材料など、さまざまな材料の選択肢がある。初めて使う新しい材料もあれば、使ったことはあるがまた違った特徴のある材料もある。そうした材料を理解し、設計に織り込んでしまおうと考えている。ここを強化し、磨き直すことで、これまでの歩みや培ってきた技術がさらに生きてくると考えている」(岩田氏)
講演では、「再生型サプライ」への取り組みの一例として、脱発泡スチロールの事例を紹介。緩衝材を、従来の環境負荷の高い発泡スチロールからリサイクル可能なパルプモールドへと置き換えることを狙うもので、現在、同社のCPS基盤技術を活用して、その取り組みを加速させようとしている。
岩田氏は「パルプモールドは温度や湿度で振る舞いが変化する。その振る舞いを理解し、それを材料モデルにして、シミュレーションに持ち込むということを進めている。現在、モデル化まで実現できており、自動解析システム(ATLAS)に、このパルプモールド梱包(こんぽう)設計のモジュールを実装できる、目前のところまできている状況だ。このようなスピード感をもって、CPS基盤技術でサーキュラーエコノミーの実現を推進していきたい」と述べる。
さらに、講演の締めくくりとして岩田氏は「日本の製造業は、試作評価と長時間労働で成長してきた。だが、それは新興国ならではの戦法であって、先進国となった日本にはふさわしくない。現在、私のモチベーションは、先進国らしい戦法を獲得したいというところにあり、シミュレーションにとどまらず、新しい計測方式のJIS規格化やマテリアルインフォマティクスとの融合など、新しい戦法の獲得に奔走しているところだ」との思いを語った。
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