横河電機が行き着いた、工場でAIが価値を出せる3つのポイント:製造現場向けAI技術(3/3 ページ)
スマート工場化が進む中、製造現場でのAI活用が広がりを見せている。その中で成果を出すポイントとして3つのポイントを挙げるのが横河電機だ。横河電機のプラント向けAIへの取り組みを紹介する。
既存理論で解き明かせない問題こそAIの出番
これらの自動制御も含め、横河電機がAIソリューションを展開する強みとして鹿子木氏は「プラントでのモノづくりをよく知っていること」を挙げる。
「ITベンダーを含め多くのAIツールが登場しているが、工場の中で使おうとした時にそのまま使えるような形にはなっていない。より使いやすい形で提供するためにはドメイン知識が必要になる。横河電機ではプラント制御機器を展開し、工場でのモノづくりを知り尽くしている強みがあり、現場の作業負荷をかけないためにより分かりやすくパッケージ化した形でソリューションを提供できる。ハードウェアからソフトウェア、AIソリューションなどを一体で提供できる点も強みだ」と鹿子木氏は語っている。
一方、製造現場でのAI活用については適用に苦しむケースもあるが、AIがはまらない領域も工場内にはあるという。「プラント制御のアルゴリズムにはPID制御も含め、数十年前から古典的なものが使われてきた。こうした中身まで明確に示されたアルゴリズムが使えるのであれば、AIを使わずに古典的アルゴリズムを用いた方がシンプルに明確に解ける。精度もその方が高い。AIを使うのは既存の理論では解けない問題だ。AIは学習により経験的知見を生かしやすく、理論が確立できなくても何らかの答えを出せるということが特徴だ。こうした理屈で解き明かされていないところでAIを用いるのが良いと考えている」と鹿子木氏の使いどころについて強調した。
今後はさらに制御領域での活用を広げるとともに、複数のAIを組み合わせ、ライン全体や工場全体の“違和感”などを解き明かせるような使い方を目指す。「現状では個々の装置やラインなどでの活用が中心だが、工場レベルでプラントシミュレーションのような形で発展させていきたい。デジタルツインも注目されているが、工場全体をデジタル世界で再現しの違和感の予兆をつかみ、事前に修正できるような姿を目指す。既に横河電機の駒ヶ根事業所では、観測用AIと制御用AIを組み合わせた社内実証なども進めており、これらを現実のものにするために取り組んでいく」と鹿子木氏は将来像を示している。
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