横河電機が行き着いた、工場でAIが価値を出せる3つのポイント:製造現場向けAI技術(2/3 ページ)
スマート工場化が進む中、製造現場でのAI活用が広がりを見せている。その中で成果を出すポイントとして3つのポイントを挙げるのが横河電機だ。横河電機のプラント向けAIへの取り組みを紹介する。
正常データから違和感を検知し異常把握
横河電機では、これらの3つの領域を基軸にAIの活用を推進し、それぞれの領域でさまざまなソリューションを提供してきた。「現状では『設備異常予測』に関するソリューションが人気だ。特にカメラによる外観検査が多い」(鹿子木氏)としている。
例えば、評価を得ている「設備異常予測」に関するソリューションの1つが「違和感検知」ソリューションである。これは、横河電機が展開する無線通信とセンサーを一体化した「Sushi Sensor(スシセンサー)」と、データロギングソフトウェア「GA10」を組み合わせ、簡単に違和感(普段と違うこと)の検知ができるということが特徴だ。正常運転時のデータのみを活用し、その記録を行ってすぐに使えるので使い勝手はシンプルだ。
従来は、閾値の設定で異常を把握するだけだったが、AIを活用することで「健康度」を数値で把握できるようになった。このトレンドを確認することで従来より3週間早く異常の予兆を確認できたという。「あるポンプで実証を行った際に、従来は減速機のシャフトの折損が発生することがあったが、今回のソリューションを活用することで、シャフト折損での故障はゼロにすることができている」と鹿子木氏は語る。
5Gも組み合わせた三段水槽実証
現状では「見える化」を含む状況の把握に関するものが多いが、横河電機ではさらに、AIにより得られた結果からプラントの自動制御へと踏み出していく考えだ。その1つとして取り組んでいるのが三段水槽の自動制御である。
プラント制御では、PID(比例、積分、微分)制御など計算方式が確立したモデルにより自動制御を行う仕組みが既に多く存在している。ただ、こうしたモデルでの計算だけでは最適な制御が行えないケースも多い。それらの1つが三段水槽のような複雑な多段水槽の自動制御である。現状では、これらの自動制御が最適化できないために、熟練技術者が経験値を生かしながら数十分おきにバルブの開け閉めを人手で行っているような場面もよく見られる。
これにAIを適用することで、最適な自動制御を目指す。奈良先端科学技術大学院大学と協力し、プラントに最適な強化学習技術の共同開発を進め、それを適用している。「過去の熟練者の操作データとそれによるアウトプットを基に学習を行い、条件に対して最適な操作を導き出し、自動制御を行えるようにしていく。プラントでは失敗データの収集が難しい点や大量の学習データの準備が行えないというAIにとっては難しい環境があるが、これらを両立させる仕組みを作る」と鹿子木氏は述べている。2021年4月にはこの三段水槽の自動制御に5Gを組み合わせた取り組みをNTTドコモと発表している。
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