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日本の製造業の現状とその打開策【前編】アイデアを「製品化」する方法、ズバリ教えます!(11)(4/4 ページ)

自分のアイデアを具現化し、それを製品として世に送り出すために必要なことは何か。素晴らしいアイデアや技術力だけではなし得ない、「製品化」を実現するための知識やスキル、視点について詳しく解説する連載。第11回は「日本の製造業の現状とその打開策」の【前編】として、設計メーカーと組み立てメーカーにフォーカスした内容をお届けする。

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日本の組み立てメーカーの衰退

 “3つの製造業”の中の「組み立てメーカー」は、2000年過ぎから衰退が始まった。組み立てメーカーは、その多くが中国をはじめとする海外企業との合弁によって海外進出を果たしたり、また、そもそも日本からはなくなり、組み立て作業が海外の組み立てメーカーに委託されたりしている。その委託先で有名なのがFoxconn Technology Group(フォックスコン:鴻海科技集団)である。つまり、“3つの製造業”の中の組み立てメーカーの仕事が中国に奪われてしまったのだ(※注2)。

※注2:フォックスコンは台湾の企業であり、組み立て工場は中国に多くある。

 一番の原因はコストである。組み立て作業は、そのほとんどが人手に頼っている。製品価格を安くして、コストで中国製品に対抗するには、人件費の安い中国に進出するしかなかったのだ。これはもっともな理由であり、当時は仕方のないことであった。だが、もう1つ重要な原因があったと筆者は考えている。それは、組み立てメーカーが生産技術を向上させようと努力してこなかったことである。

 前職において筆者が設計した製品は、自社の関連会社である日本の組み立てメーカーで生産を行っていた。しかし、その生産への導入にはちょっとしたハードルがあった。組み立てにくい設計は、ことごとく「設計修正」を依頼されたのだ。組み立てやすい設計は組み立てミスをなくし、品質向上につながるので、設計修正はもちろん必要だ。しかし、組み立て作業には生産技術があり、それを高めることによっても組み立てミスをなくすことができるはずである。残念ながら、その組み立てメーカーは生産技術の向上を貪欲に追い求めることはせずに、「誰でも簡単に組み立てられる設計」を要望し続けたのであった。

 そして、2002年ごろになると、筆者はプリンタの設計を担当するようになり、その生産をマレーシアに工場を持つ台湾系の製造専門会社に委託していた。工場内はまるで“未来の工場”のように広大で整然とし、筆者が依頼する組み立て内容は、どんな設計であっても貪欲に請け負う姿勢が見て取れ、日本の組み立てメーカーとの違いをまざまざと見せつけられた。その7年後の2009年、筆者が長年お世話になった前述の日本の組み立てメーカーは閉鎖となった。

中国・成都にあるフォックスコンの工場内部の様子
図6 中国・成都にあるフォックスコンの工場内部の様子[クリックで拡大] 出所:Foxconn Technology Group

 日本の組み立てメーカーは、設計メーカーの関連企業であったり、もしくは社内に組み立て部門があったりすることが多い。つまり、組み立てメーカーは系列化されており、設計メーカーで設計された製品は、必ず決まった組み立てメーカーにその仕事がいくため、営業をして設計メーカーに仕事を取りにいく必要はなかった。どんな設計であっても、早く正確に組み立てられるように生産技術を向上させ、他社と競い合う必要がなかったため、それが「誰でも簡単に組み立てられる設計」を要望する企業体質につながったといえる。

 結果論かもしれないが、現在IoTやDXが叫ばれる時代となり、日本に残る組み立てメーカーは活性化され、競うようにして生産技術の向上を進めている。過去に生産技術が高止まりしていたのではなく、その技術向上の必要性がなかったことが、日本の組み立てメーカーが衰退してしまった原因の1つだと筆者は考えている。

 筆者は、技術には限界はないと思う。ディスプレイ業界で用いられるデバイスは、ブラウン管に始まり、液晶、OLED(有機EL)と続き、画質もコンシューマ向けではアナログ放送から2K、4Kへと技術は進歩している。もうこの業界の先には何があるのだろう? と思っていた矢先に、ソニーから微細なLEDを使用した「Crystal LED ディスプレイシステム」が発売され、画像を映画撮影の背景にするシステムが発表された。デバイスや画質が素晴らしいだけでなく、映画の背景に応用するという、過去の技術やビジネス(dots)のつながりで全く新しい製品やビジネスを創出する、スティーブ・ジョブス氏の名言である「connecting the dots」の典型的な実現例だと感じた。(次回に続く)

ソニーの「Crystal LED ディスプレイシステム」
図7 ソニーの「Crystal LED ディスプレイシステム」(バーチャルプロダクション使用例)[クリックで拡大] 出所:ソニー

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筆者プロフィール

小田淳

オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)

上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。

ロジカル・エンジニアリング Webサイトhttps://roji.global/

著書


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