シリコンカーバイド(SiC)が電気自動車の普及に拍車:アプライド マテリアルズ ブログ(2/2 ページ)
米国の大手半導体製造装置メーカーであるアプライド マテリアルズ(Applied Materials)のブログの抄訳を紹介する本連載。今回のテーマは電気自動車への搭載が進むSiCデバイスだ。
トラクションインバーターにおけるIGBTとSiCの効率を比較
CreeのLowe氏によれば、SiCチップはEVと同様にSカーブをたどって5年で普及すると見られ、現在はその始まりのきっかけとなる劇的な技術転換期にあるという。予想される需要増に応えるため、現在同社は世界最大のSiCファブを建設中で、2022年には生産を開始する予定だ。
Daigle氏が所属するRogers Corporationは、数十年にわたってシリコンパッケージングを手掛けてきた。同氏はSiCベースのパワー半導体によってEVのバッテリー用インバーターのサイズが約50%縮小され、電力効率は99%近くまで向上すると予想している。SiCの採用が進んでいることは、自動車メーカーの半導体に対する見方が根本的に変わりつつある証拠でもある。以前の自動車メーカーはコンポーネントレベルの数字(例えば、1mm2当たりのコストなど)ばかりを追求してきたが、最近では省スペース性、冷却特性、バッテリーのコスト、航続距離その他を勘案してシステムレベルでSiCテクノロジーを評価するようになってきた。テスラ(Tesla)の「Model 3」にSTMicroelectronicsのSiC-MOSFETが採用され、後に既存車種の「Model S」や「Model X」にも導入が広がったが、これを知る自動車メーカー各社の心中は穏やかではないだろう。
SiCの経済性は、多分野におけるブレークスルーを通じて改善されつつある。例えば、Creeがニューヨーク州マーシーに新設するファブでは200mmウエハーを用いたSiCパワー半導体の製造が予定され、従来の150mmウエハーラインに比べて大幅なコストダウンが見込まれている。さらに私の同僚Rob Davenportによれば、ムーアの法則に沿った従来のトランジスタのスケーリングは減速しているものの、マテリアルズ エンジニアリングのイノベーションに加え、2D/3Dアーキテクチャのブレークスルーや新しいパッケージング技術により先進的な化合物半導体ノードとウエハーサイズの大型化が実現し、高歩留まりでSiCを量産できる日が近づきつつあるという。
アプライド マテリアルズは自動車用パワー半導体の大手サプライヤーと協力して、トラクションインバーター(EVバッテリーからのDC電流をモーター駆動に必要なAC電流に変換する装置)に使われるIGBTデバイスとSiCデバイスを比較する研究を行った。それによると、SiCを採用した方がシステム効率が約4%高くなる他、バッテリーやデバイスの電圧が高まるにつれてこの数値が6%以上にもなり得ることが分かった。現在SiCベースのトラクションインバーターはEVでも航続距離の長い高級モデルにしか使われていないが、今後システム効率の向上とSiCのコストダウンが続けば状況は変わってくるだろう。2030年までにはSiCがIGBTと市場で競合するようになり、市中走行をメインとする2人乗り小型EVなど幅広いEV車種に採用されるとみられている。
SiCや他の化合物半導体が量産可能になれば、さまざまな市場が視野に入ってくる。産業用モーター、変電設備、一般的な産業用機器に加え、白物家電も対象となるかもしれない。後日振り返ってみれば、EVは巨大なSiC市場のほんの一角にすぎなかったことが分かるはずだ。
Davenportは「化合物半導体はパワーエレクトロニクスの世界に大きなインパクトを与え、これまで思いもよらなかったことを実現するだろう。そのためには誰かが多少のリスクを承知の上で新しい何かを採用し、コスト削減への道を追求することで実現する。半導体業界は常にそれを成し遂げてきた。これまではスケーリングがその手段だったが、今日ではシステムレベルのアプローチがより重要になっている」と述べた。
EV化に向け自己変革を進める自動車業界にとって、高効率化による航続距離の延長とさらなるコスト低減、そして継続的な性能改善へのテクノロジーロードマップをもたらすSiCは、まさに理想的な技術と言えそうだ。アプライド マテリアルズは業界エコシステム内で協力しながらSiC技術を本流に乗せ、その量産化と普及を加速し、よりサステナブルな世界を実現できるよう努力を続けている。
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