現場も機械も「新しいことをやるには何を捨てるか」、花王の考え方:イノベーションのレシピ(2/2 ページ)
B&Rはオンラインイベント「B&R JAPAN Digital Innovation Day 2021」を開催。本稿ではその中で「イノベーション」をテーマに行われたB&R(日本法人)代表取締役の小野雅史氏と花王 技術開発センター 先端技術グループ 部長の小林英男氏による対談を紹介する。
捨てても完全に捨てたことにならない
日本企業の多くがこれらの「捨てる」判断がなかなかできない課題を抱えている。また、新たな技術へのシフトチェンジを行えば、従来の専門技術者をどうするのかという課題なども生まれる。小野氏は「機械メーカーの中では『デジタルシフトの中でメカニカルエンジニアをどうしていけばよいのか』という声も聞く」と語る。
これに対し小林氏は「イノベーションとはそもそもがそういうものだ」と訴える。「こうした話の際にいつも例として話すのが米国のイーストマン・コダック(以下、コダック)の例だ。フィルムの巨人だったコダックはデジタルカメラの世界初の開発メーカーでもあった。しかし、フィルムで十分に利益が出ていたため、デジタルカメラの開発に力を入れずにそのデジタルカメラに押されて一時的に倒産した。つまり、パラダイムシフトを起こす側に常に立たなければ企業として存続できないということだ」(小林氏)。
一方で小林氏は技術の多面性についても強調した。「作った技術は良い面も悪い面もある。これを見方によって良い面を生かす発想が重要だ。事業はなくなっても技術は残り続ける。技術の違った面を違った事業に生かすことができるかもしれない。『あの時作った技術が生きている』ということは花王の中でもさまざまなところにある。1つ大きなことを成し得るとそれに伴う副産物も大きくなる。チャレンジしなければそういうチャンスも生まれない。そういう意味では心配はいらないと考えている」と小林氏は説明する。
新たな生産技術を日本発で
これらのイノベーションに取り組む中で、小林氏が注目の生産技術として挙げたのが、B&Rの磁気浮上式技術を活用したリニア搬送システム「ACOPOS 6D」だ。
小林氏は「生産機械は基本的には回転力を直線に変えることでさまざまな動きを生み出しているが、そのために複雑な機構が必要でサイズも大きくなる。リニアシステムはシンプルな構造が可能である上、磁気浮上型システムは夢を感じた。うまく使えば、プロセス製造において従来は制御できなかった、中間反応部分の制御なども行えるようになる。蒸気でホットアイマスクなど『めぐりズム』製品の発熱材の開発に際し、多くの機械要素の調整が必要な生産技術の確立に大きな苦労をしたが、この磁気浮上型システムがあればもっと簡単にできたのではないかと感じた」と語っている。
小野氏は「B&Rはグローバルでさまざまな生産技術を展開しているが、海外との会議で『新たな生産技術が生まれた』と報告されることが多く、日本からなかなか発信できない悔しい状況がある。磁気浮上式システムも含め、いつか日本発のモノづくりを海外に発信したい」と思いを語っている。
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