Android対抗の「Tizen」から派生した「TizenRT」はRTOSらしくないRTOS:リアルタイムOS列伝(14)(3/3 ページ)
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第14回は、Android対抗モバイルOSとして開発された「Tizen」から派生した「TizenRT」を紹介する。
定義的には間違いなくRTOSだがあまりRTOSらしくない
図4がTizenRTのブロック図だ。御覧の通り随分いろんなものが入っている。もちろんこれらが全て搭載されるわけではない(例えば、Audio I/Fを持っていないハードウェア上でAudio FrameworkやAudio Coreをインストールする意味はない)が、ネットワーク関連のコアやスタック類はほぼ標準で載ることを考えると、それなりのメモリフットプリントは必要になる。
冒頭では2MB未満のSRAMで動作と書いたが、実際にサポートされているハードウェアは以下のようになっている。
- Samsung ARTIK053/ARTIK053S/ARTIK055S(Cortex-R4 320MHz、1408KB SRAM/8MB Flash)
- Infineon CY4390X(Cortex-R4 320MHz+Cortex-R4 160MHz、2MB SRAM/640KB Flash)
- Espressif ESP32-DevKitC(ESP32 240MHz、8MB SRAM/8MB Flash)
- Espressif ESP-WROVER-KIT(ESP32 240MHz、8MB SRAM/8MB Flash)
- iMX RT 1020 EVK(Cortex-M7 500MHz、32MB SRAM/8MB Flash)
- iMX RT 1050 EVK(Cortex-M7 600MHz、32MB SRAM/64MB Flash)
- SIDK_S5JT200(Samsung Exynos i T200ベース開発ボード、Cortex-R4 320MHz+Cortex-M0+ 320MHz、1.4MB SRAM/Flash容量不明)
- STMicro STM32F407-DISC1(Cortex-M4 168MHz、192KB SRAM/1MB Flash)
- STMicro STM32F429I-DISCO(Cortex-M4 180MHz、256KB SRAM/2MB Flash)
- STMicro STM32L4R9AI-DISCO(Cortex-M4 120MHz、640KB SRAM/2MB Flash)
- QEMU
InfineonのCY4390XやExpressifのESPボードで異様にメモリが多いのは、オフチップSRAM/Flashを搭載しているためで、オンチップだともっと容量は少ない。それはともかく、最低構成はSTMicroのSTM32F407-DISC1なので、ギリギリまで詰めれば192KB SRAM/1MB Flashでも動作するというあたりだが、アプリケーションがどの程度まで動くのかは未知数である。現実問題としてはもう少し余力があるハードウェアの方が好ましいだろう。
OSの構成そのものはNuttXを引き継いでいるため、主要な特徴は似たようなものだが、一番異なるのがソフトウェア環境だろう。Dockerイメージの形で開発環境が用意されており、これをロードして立ち上げるだけで利用できる。また、Linux環境との互換性が高いため、RTOS上でアプリケーションを構築するよりも、既に存在するLinuxベースのアプリケーションのサブセットを移植する、といった使い方が非常に容易になっている(というよりも、それを志向しているように見える)。上位機種はTizenベースで構築するが、低価格のサブセットは不要な機能を減らしてTizenRTで動かす、なんて意図の下で開発されたように感じられる。
これがRTOSか? といわれると、定義的には間違いなくRTOSなのだが、あまりRTOSらしくないのがTizenRTである。
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