かつて米軍に重用されたRTOS「RTEMS」、今や航空宇宙分野で揺るぎない地位に:リアルタイムOS列伝(11)(1/3 ページ)
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第11回は、かつて米国の軍需向けで重用されてきたRTOS「RTEMS」を紹介する。現在は軍需ではなく、航空宇宙分野向けフリーRTOSの座を射止めている。
記事タイトルを見て「今回もまた聞いたことのないリアルタイムOS(RTOS)を」と言われそうだが、いや筆者もいろいろ調べていたら世の中にはこんなに多くのRTOSがあったのか、という感じで、聞いたこともないようなRTOSが続々出てくるのにはちょっと驚いている。
もっともRTOSの場合、しばしば「自分で(独自のRTOSを)作る」ということが起き得る。あれもこれもと入れ始めると大変(一つの境目はNetwork Stackをどうするか、というあたりではないかと思う。後はデバッグ環境をどうするか)だが、本当に最小限のタスクスケジューラーだけでよいなら自分で作ることも難しくない。米国のエレクトロニクスメディアであるEE Journalで、2020年10月から“Create Your Own RTOS in 1 Hour”なる連載(1回目記事はこちら)が始まっていたりするほどだ。こうしたハードルの低さは、RTOSが乱立する一つの要因になっているとは思う。
航空宇宙軍需向けと政府機関向けの“システム”を手掛けるOARが開発
さて今回紹介するのは「RTEMS」である。開発元はOAR Corporation(図1)。正式な社名はOn-Line Applications Research Corporationだそうだが、既にOARという略名の方が通りがよくなっている。
1978年に創業しており、さまざまな“システム”の開発や、そうしたシステム向けのソフトウェアの提供を手掛けてきた。ここで言う“システム”だが、同社の1996年における顧客リストを見ると以下のようなそうそうたる企業が並んでいる。
- Boeing Aerospace Company
- U.S. Army Missile Command(MICOM)
- Nichols Research Corporation
- Central Dynamics Limited
- European Space Agency
- Division Incorporated
- Phoenix Microsystems
- 3M Corporation
- Digitech Communications
- Gresham Smith & Partners
- Madison County Board of Education
- Command Control Communications Corporation
要するに、航空宇宙軍需向けと政府機関向けシステムがメインであり、“システム”というのはそうした特殊用途向けの特殊な機材、ということになる。
そんなOARが1980年代後半から開発を始めたRTOSがRTEMSである。RTEMSは当初、“Real-Time Executive for Missile Systems”の略とされ、次いで“Real-Time Executive for Military Systems”の略となり、最終的に現在は“Real-Time Executive for Multiprocessor Systems”の略とされている。
最初は同社がMICOM向けに開発したものであり、このため本当にミサイルの内部で誘導回路などの制御を行うシステム向けだったが、次いでミサイル以外にも広範な軍需向けに採用され、これを一般化する際に刺激的な文言を置き換えた、というあたりだろうか。一般公開は1994年から始まっている。ちなみに1998年5月のRTEMSのWebサイトを見ると、メールでの問い合わせ先が“rtems@redstone.army.mil”で、米陸軍のレッドストーン兵器廠の中にRTEMSのサポートがあったことが分かるあたり、まだこの時点では軍用技術を一般公開的な雰囲気が強い(というかURL自体がhttp://www.rtems.army.mil/というあたりでお察しである)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.