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欧州の車載と産業機器でガッチリシェアをつかむRTOS「ERIKA Enterprise」リアルタイムOS列伝(9)(1/3 ページ)

IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第8回は、欧州を中心に車載や産業機器などの分野でガッチリとシェアをつかんでいるRTOS「ERIKA Enterprise」を取り上げる。

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 「ERIKA Enterprise」という名前を初めて聞いたとき、まさかそれがリアルタイムOS(RTOS)の名前だとは思わなかった。なぜこんな名前にしたのかいろいろ調べたものの、由来は不明である。いつの日か、このERIKA Enterpriseを開発したEvidence SRL 創業者兼初代CEOのパオロ・ガイ(Paolo Gai)氏とお話しする機会があったら、絶対に確認したいものである。

⇒連載記事「リアルタイムOS列伝」バックナンバー

車載向けのフリーなRTOSを狙って開発がスタート

 さてそのガイ氏、2001〜2004年にイタリアのサンターナ大学院大学(Scuola Superiore Sant'Anna)に籍を置き、ここのRETIS(Real-Time Systems Laboratory)で博士号を取得しているのだが、この博士号を取る研究のプロジェクトがRTOSの開発であった。これがERIKA Enterpriseの原型である。

 ガイ氏はその後、このRETISからスピンアウトする形で、RTOSを開発・提供する企業としてEvidence SRLを立ち上げ、創業者兼CEOとして研究プロジェクトを基にリリースしたのがERIKA Enterpriseである。当初は20人ほどの陣容であったが、平均年齢は34歳とやや高めで、3割が博士号を持ち、しかも自動車業界や産業機器、白物家電などの経験を積んだエキスパートの集団だったそうである(直近もまだ28人とかいう数字があるので、それほど会社そのものは大きくなっていない)。

 さてそのERIKA Enterpriseの特徴は図1にある通りだ。当初から車載向けのフリーなRTOSを狙う、というちょっと独特な戦略になっている。1995年に仕様が示された、欧州の車載OSの標準であるOSEK/VDX(ドイツの車載ECU向けプログラム向けの業界標準であるOSEKと、フランスの車載ECU向けプログラムの業界標準であるVDXが共同で策定した規格。現在はISO 17356-1としてISO標準になっている)に準拠しており、APIがAUTOSARのサブセットになっているというあたりも独特というか、他にあまり例がない。これをオープンソースの形で提供するというのも他に例がないし、しかも静的リンクの形で提供されるので、プロプライエタリなコードのマイグレーションが容易というのも独特である。

図1
図1 Linuxとのインテグレーションそのものはその後だんだんと方向性が変わってきた。詳しくは後述(クリックで拡大)

 なぜこんな戦略を? という問いに対する説明が図2だ。OSEK/VDXにしてもAUTOSARにしても、複数のOSベンダーからこれらに対応したRTOSが「現在は」容易に入手可能だが、2000年当時はそこまで環境的には恵まれていなかった。このため、それこそティア1やティア2のサプライヤーは自力で何とかするということが珍しくなかった。

図2
図2 オープンソースの形で車載ECU向けRTOSを提供することで、ここにビジネスチャンスが生まれるとガイ氏は読んだわけだ(クリックで拡大)

 当然これらはプロプライエタリな実装になるのだが、既に実装が存在するアーキテクチャやハードウェアはともかく、新しいアーキテクチャへの実装はそう簡単ではない。もちろん、それこそ「FreeRTOS(現Amazon FreeRTOS)」などを流用することもできるが、これをOSEK/VDX準拠にするとか、AUTOSAR対応にするのは猛烈なコストがかかるし、新しいアーキテクチャへの移植が必ずしもスムーズに行われるとは限らない。

 かくして車輪の再発明が繰り返されるという状況に陥っているのだが、ここにオープンソースの考え方を持ち込めば、再利用の環境が広がるというのがEvidence SRLの戦略である。この戦略では、顧客はコアとなるコンポーネントに専念でき、効率的に開発が行えることになる(図3)。

図3
図3 もちろん毎回買い直すのはサポートのコストを込みにしているから、という側面もあるので話はここまで単純ではないのだが(クリックで拡大)

 組み込み機器におけるオープンソース戦略の一つの例が、IVI(In-Vehicle Infotainment)システム=車載情報機器になるだろう。IVIシステム向けのOSとしてはAutomotive Grade LinuxやTizen、GENIVI、あるいはAndroidなどが利用されているのだが、2012年10月発行の雑誌「Wired」によれば実に97%がこうした標準のプラットフォームを採用しており、プロプライエタリな環境で実装されているのは残りのたった3%にすぎなかったとしている(図4)。

図4
図4 IVIシステムとECUでは話が違うだろう、という声はあるかとは思うが、実は本質的には変わらない気もする(クリックで拡大)

 もっとも、「あまり例がない」とは書いたものの、ここまで挙げた資料が公開された2013年7月の時点では、ERIKA Enterprise以外にもARC Core(2018年にVector Informatikが買収)と、Trampoline(2015年からGitHubに拠点を移動している)といった選択肢もある。その上で、主な違いはライセンス形態であり、ERIKA Enterpriseは唯一、プロプライエタリなコードを静的リンクの形で混在させられるとしている(図5)。

図5
図5 厳密に言えばARC Coreも商用ライセンスを使えば可能だと思うのだが(クリックで拡大)

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