スマートメーターに特化したポーランド発RTOS「Phoenix-RTOS」の潔さ:リアルタイムOS列伝(12)(1/3 ページ)
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第12回は、ポーランド発のRTOS「Phoenix-RTOS」を取り上げる。スマートメーターに特化した、ある意味で潔さが光るものになっている。
今回はポーランド発のリアルタイムOS(RTOS)である「Phoenix-RTOS」をご紹介したい。開発元はPhoenix Systemsという会社だが、この会社が成立するまでのいきさつがなかなか複雑である。
大学生による開発から、スクラッチで作り直された「Phoenix-RTOS 2.0」へ
このPhoenix-RTOSの開発者であるPawel Pisarczyk氏、もともとワルシャワ工科大でコンピュータサイエンスの学位を取る際の卒論のテーマがどうもPhoenix-RTOSの原型だったらしい。その後、そのままワルシャワ工科大で博士号まで取得するが、これと並行して2002年にはIMMOS(古い方にはおなじみのINMOSとは違うので注意)という組み込みシステムの会社を創業している。ただここは長続きしなかったようで、博士号取得後にはATM S.A.という会社に入社。こちらでさまざまなポジションを歴任しながら、最後にはR&D部門のディレクターになっている。
この時点で、このATM S.A.のR&D部門がAtende Software companyという会社にスピンアウトし、Pisarczyk氏はCEO職に就く。ただ途中でCEO職は交代するのだが、並行して親会社だったATM S.A.のソフトウェア部門と思われるATM SoftwareのCTOに就任したりしている。ただ今ではそのATM SoftwareがAtende Software companyに取り込まれてしまったようで、一体どうなっているのかよく分からなかったりする。結果としてPisarczyk氏は、2011年からAtende SoftwareのCEO職を2020年12月まで務めている。
この2011年には、Phoenix-RTOSの関連でさらに2つの会社が創業された。1つがPhoenix Systems Sp.で、冒頭に書いたPhonenix-RTOSの開発やサポートを行う会社である。もう1つがOmniChipという会社で、こちらは半導体開発を手掛けている。Pisarczyk氏は、このOmniChipの取締役会議長を2017年末まで務めていた。これら3社の関係をまとめたのがこちら(図1)である。ちなみに現在のPisarczyk氏は? というと、そのPhoenix Systemsと、Atende Industriesという2社のCEOを務めている。なかなか忙しい方である。
図1 ちなみに、Atende Software(というかAtende SA)は、ここにあるPhoenix SystemsとOmniChipの他にも、Atende Industries(100%)、TrustIT(100%)、Codeshine(75.3%)、A2 Customer Care(60%)などの子会社を抱えている(クリックで拡大)
それでは、話をPhoenix-RTOSに移そう。開発が始まったのは1999年で、まだPisarczyk氏が大学3回生のころだ。当初のターゲットはx86であり、ある程度完成したところでARM7TDMIに2003年、PowerPCに2004年に移植される。ただし、移植はしたもののいろいろ問題があったらしい。時期的にはまだPisarczyk氏が博士課程に在籍中ではあるが、この初代Phoenix-RTOSは破棄され、あらためて一からスクラッチで作り直された。これが同じ2004年に登場したPhoenix-RTOS 2.0である。
このPhoenix-RTOS 2.0が恐らくATM S.A.に持ち込まれ(このあたりの事情はどこにも情報がないので推測なのだが)、ここでPisarczyk氏だけでなく他のエンジニアも関わる形で新機能の追加やターゲットの追加、サポートなどが行われてきたものと思われる。2010年にはPhoenix-RTOSを中核とした別会社を興す(というか、ATM S.A.からAtende Softwareに移管されていたと思うのだが、そのAtende SoftwareがPhoenix-RTOS部門をスピンアウトする)決断を下したようで、2011年に独立した格好だ。まぁ独立といっても51%の株をAtende Softwareが握っているから連結子会社という扱いになるのだが、Atende Softwareは図1にあるようにスマートグリッドやマルチメディア、セキュリティのソリューションなどを提供するのが本業の会社であり、RTOSの開発やサポートは別会社にした方が都合が良かった、ということかと思う。
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