リチウムイオン電池の性能を左右する「活物質」とは?【負極編】:今こそ知りたい電池のあれこれ(5)(3/3 ページ)
今回はリチウムイオン電池に用いられる「負極活物質」について解説していきたいと思います。負極活物質の開発は「リチウム」を活用したエネルギー密度の向上と安全性の担保の兼ね合いが常に求められています。
炭素系材料やLTOといった一般的な負極活物質と比べ、より高容量な材料として注目されているのが「シリコン」に代表されるLi合金系材料です。黒鉛の理論的な比容量が約370mAh/gであるのに対し、シリコンはその10倍以上の約4200mAh/gと極めて高い値を示します。現在市販されているリチウムイオン電池の中には容量向上のために負極へ少量のシリコンが添加されているものもあり、Si元素が天然に豊富に存在する資源であることからも、今後徐々に黒鉛系材料から置き換わっていくことが予想されます。
しかし、シリコンの実用化にあたっては、まだいくつかの課題があります。
シリコンは容量向上に劇的な寄与をもたらす一方、充放電時のリチウム合金化に伴い、非常に大きな体積変化や粒子形状の崩壊を引き起こします。また、この体積変化によってSEI被膜が形成されていない新たな活物質表面が露出するため、充放電を繰り返すごとにSEI層の形成が繰り返され、容量低下をもたらします。その結果、他の負極活物質と比較すると、電池としてのサイクル寿命が短くなる傾向にあります。
こういった大きな体積変化に関する課題の解決のために、活物質粒子のナノサイズ化や炭素との複合材料化、体積変化に追従できる添加物の使用など種々の手法が検討されています。
例えば、2020年9月に開かれたTesla(テスラ)の電池開発進捗報告イベント「Battery day」では、電極材料のつなぎや結着を担う「バインダー」という材料を改良することで、シリコン粒子の体積変化に対応する案が示されています。
今回はリチウムイオン電池の「負極活物質」について解説してみました。改めてまとめてみると、以下のようになります。
- エネルギー密度の観点からは金属リチウムが最良だが、実用化には安全性の面で課題がある
- 黒鉛(グラファイト)に代表される炭素系材料が現在最も一般的に用いられている
- LTO(チタン酸リチウム)は動作電圧が高いため、エネルギー密度の向上は難しいものの、高い耐久性や入出力特性が注目されている
- シリコンは一般的な負極活物質よりも高い容量を示す材料だが、実用化するためには充放電に伴う体積変化の問題を解決する必要がある
昨今のリチウムイオン電池の報道では、高価で希少な金属資源に関連する「正極活物質」に焦点を当てたものが比較的多いように感じます。しかし、電池は「正極」と「負極」が対となり、バランスをとって成り立つものです。そのような技術的な背景を踏まえて情報を整理してみると、また違った理解が得られるかもしれません。
著者プロフィール
川邉裕(かわべ ゆう)
日本カーリット株式会社 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。日本カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。
「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
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リチウムイオン電池だけが正解じゃない、と思うんですよね……。