リチウムイオン電池の性能を左右する「活物質」とは?【負極編】:今こそ知りたい電池のあれこれ(5)(2/3 ページ)
今回はリチウムイオン電池に用いられる「負極活物質」について解説していきたいと思います。負極活物質の開発は「リチウム」を活用したエネルギー密度の向上と安全性の担保の兼ね合いが常に求められています。
現在、リチウムイオン電池に用いられている代表的な負極活物質は、炭素系材料とLTO(Li4Ti5O12、チタン酸リチウム)です。
炭素系材料は現在最も一般的な負極活物質で、中でも黒鉛(グラファイト)がよく使用されます。黒鉛はグラフェン(炭素シート)が積層した構造をしており、充放電に伴ってリチウムイオンが層間へ挿入・脱離を繰り返します。「金属リチウム」ではなく「リチウムイオン」の状態で層間に存在することができるというのが、リチウムイオン電池の安全性を担保し、実用化に至った基本メカニズムです。また、動作電圧が極めて低く(0.1〜0.2V vs. Li/Li+)、リチウムイオン電池が高いエネルギー密度を示す一因となっています。
黒鉛負極を語る際に忘れてはいけないのはSEI(固体電解質界面)の存在です。リチウムイオン電池初期充電中の黒鉛へのリチウムイオンの挿入に伴い、黒鉛表面にはSEIという被膜が形成されます。このSEI被膜はイオン導電性を示すものの電子伝導性を持ちません。そのため、リチウムイオンの移動を阻害することなく、電解液の還元反応による分解を抑制し、リチウムイオン電池の長期安定動作に寄与しています。
一方、電解液中のリチウムイオンの一部がSEI形成によって消費されてしまうことが電池容量減少の一因ともなりますが、現在は活物質粒子形態の最適化や高純度化、効果的な電解液添加剤の働きにより、SEI形成による充電初期の容量低下は極めて低い値に抑えられています。
また、部分的にグラフェン領域をもちつつも構造的な配列は持たない非晶質な黒鉛も、負極活物質として用いられています。このような材料の乱層的な炭素構造は非常に複雑であり、電気化学特性も材料によって異なります。フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を不活性ガス雰囲気で熱処理することにより得られるハードカーボン(難黒鉛化炭素)、ピッチ(タール蒸留後の釜残渣)系炭素や熱可塑性樹脂を1000〜1200℃に熱処理することにより得られるソフトカーボン(易黒鉛化炭素)などがあり、求める電池特性によって材料の使い分けがなされます。
一般的には、容量を求める場合は「黒鉛」、入出力やサイクル特性を求める場合は「ハードカーボン」、両者の中間程度の特性が必要な場合は「ソフトカーボン」が、それぞれ用いられる傾向にあります。
LTO(チタン酸リチウム)は前回(リチウムイオン電池の性能を左右する「活物質」とは?【正極編】)の記事で紹介した正極活物質のような「リチウムイオン含有金属酸化物」の一種です。結晶構造でいうとLMO(マンガン酸リチウム)などと同じ「スピネル型」に分類されます。また、東芝のリチウムイオン電池「SCiB」に採用されていることでも知られる材料です。黒鉛負極と比べると動作電圧が高いため(1.5V vs. Li/Li+)、エネルギー密度の向上は難しいものの、その高い耐久性や入出力特性が注目されています。
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