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iPS細胞実用化の“死の谷”を越えろ、武田薬品など出資の新会社が始動:研究開発の最前線(2/2 ページ)
武田薬品工業と京都大学iPS細胞研究所(CiRA)が共同研究プログラム「T-CiRA」の研究開発成果の社会実装を目的とする「オリヅルセラピューティクス株式会社」の設立背景と今後の展望について説明。同社は2026年をめどにiPS細胞由来の心筋細胞と膵島細胞を用いた再生医療の臨床有効性・安全性データを収集し、株式上場を目指す。
5年目のT-CiRAは事業展開戦略を拡充すべきタイミングに
T-CiRAに2016〜2025年の10年間で総額200億円を出資する武田薬品工業にとっても、オリヅルセラピューティクスへの期待は大きい。T-CiRAでは、ヒトiPS細胞を用いた研究プロジェクトが多数進められており、患者の細胞を用いて病態生理を理解し適切な創薬に生かすiPS創薬の分野では、ALS(筋萎縮性側索硬化症)治療薬の探索や、iPS細胞由来CAR(キメラ抗原受容体)遺伝子改変T細胞を用いたがん免疫細胞療法(iCART)などで成果が出始めている。
武田薬品工業は、T-CiRAの研究成果を事業化する際には自社での展開を優先する方針を示しており、がん、ニューロサイエンス、消化器、遺伝性希少疾患などは重点領域とされている。同社 T-CiRAディスカバリー ヘッドの梶井靖氏は「T-CiRAでは、多種多様な細胞とアプリケーションの研究が同時並行的に進められている。それらの相乗効果もあって、臨床応用が可能なプロジェクトが複数出ており、T-CiRAプログラムの5年目に至り、事業展開戦略を拡充すべきタイミングとなった。そして、心筋細胞と膵島細胞の研究成果を最もいい形で迅速に患者に届けるには、外部資金を活用した新会社の設立が必要だと判断した」と述べている。
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