ZMPが3種の走行方式を複合化した「Hybrid SLAM」対応AGVを量産化:物流のスマート化
ZMPは2021年7月15日、複合的な走行方式機能「Hybrid SLAM」に対応した物流支援ロボット「CarriRo」の量産版モデル受注を開始したことを発表した。
ZMPは2021年7月15日、複合的な走行方式機能「Hybrid SLAM」に対応した物流支援ロボット「CarriRo」の量産版モデルの受注を開始したことを発表した。同社のロボット製品や活用の取り組みなどを紹介する年次イベント「ZMP World 2021」(2021年7月13日〜15日に開催)で説明を行った。価格はHybrid SLAM対応版の場合、台車タイプが月額8万5000円(5年リース契約)、パレット積載タイプが月額9万5000円(同)。
3つの走行方式の特徴を掛け合わせ
Hybrid SLAMは、AGV(無人搬送車)など自動走行ロボットの代表的な走行方式であるSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)方式、ライントレース方式、ランドマーク方式を組み合わせた走行方式である。各走行方式のメリットを掛け合わせることで、デメリットを補い合い、より安定的で柔軟な走行を可能にする。
例えば、LiDAR(Light Detection And Ranging)を活用して周囲環境を認識しながら走行するSLAMは、配車や整列、車庫入れなど柔軟な動作が求められる環境に適した走行方式である。一方でSLAMは周囲環境の変化に弱いというデメリットがある。資材や設備のレイアウトが変わると自機位置を見失い、想定ルートから逸脱する可能性もある。そのため、実機運用開始から1〜2週間程度経過して、走行環境内が変化した場合は、再度走行環境のマップを作り直さなければならない可能性もある。
ライントレースの場合は、AGVを指定のルート上で高精度に走行させられるが、走行ルートが固定化される上、ルートの再設定にも手間が掛かるというデメリットがある。2次元コードを読み取って走行するランドマークは、コード自体は安価かつ手軽に設置できるものの、アスファルト路面などに貼りづらいのが難点だ。
これらのデメリットを解消し得るのがHybrid SLAM機能である。最初に、カメラの映像から特徴点を抽出するVisual SLAMを活用して、走行ルートを周回させて、周囲環境をマッピングする。このマッピングした環境地図内に仮想ランドマークを置いて、AGV側に実際の動作を記憶させる。ZMP CarriRo事業部長の笠置泰孝氏は「Visual SLAMは手軽にAGVの学習が行える点が大きな特徴だ。高度な画像認識技術やソフトウェア開発力が求められるため採用事例は少ないが、ZMPが保有する独自のノウハウや技術力を活用して実現した」と語った。
また、周囲に特徴点が少ない場所ではSLAM方式のみでの対応が難しいため、物理的なランドマークなどを設置する。ライントレースによる誘導も可能だ。一般的なSLAM方式に比べて、短時間でのルート設定を可能にする。狭い場所や柔軟な走行が求められる場所ではSLAM方式、積載地点での停止など高い動作精度が求められる場所ではライントレース方式、長距離区間を自動走行させる場合はランドマーク方式など、運用用途に合わせて柔軟に変更できる点が強みだ。
加えて、一般的にSLAM対応型ロボットは事前に定めたスタートポイントから移動を開始するが、Hybrid SLAM機能を使用する場合はマップデータとランドマークのデータを組み合わせて自機位置を判定するため、スタートポイントの柔軟な設定が可能になっている。
笠置氏は、Hybrid SLAM機能対応型CarriRoを用いた実証実験において、顧客課題の解決につながった事例もあると説明する。例えば、九州地方の建機メーカーにおいて、工場の建屋間での搬送のために導入した事例があった。建屋の間はアスファルトで舗装されており、かつ重量の思いフォークリフトが頻繁に行き来する。このため、ランドマークが破れやすく、はがれやすいためAGVの導入が困難だったが、これをHybrid SLAM機能を用いることで解決して、現在では7台を運用しているという。
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