IARシステムズの新社長は40歳、国内組み込み業界に新たな風を吹き込む:組み込み開発 インタビュー(2/2 ページ)
組み込み開発ツールのベンダーとして存在感を増しているIAR Systemsの日本法人の新社長に原部和久氏が就任した。国内組み込み関連企業のトップとしては40歳と若い原部氏に、今後の事業戦略や日本の組み込み業界への期待などについて聞いた。
Arm64ビットとRISC-V、組み込みセキュリティ、機能安全で成長目指す
MONOist 国内市場の成長余地は大きいということですが、どのような事業展開を進めていくのでしょうか。
原部氏 今後5年間は「組み込み開発ツール市場の拡大」と「組み込みセキュリティ市場の開拓」という2つの戦略を進めていく。
「組み込み開発ツール市場の拡大」で期待しているのは、先ほど挙げたArmのプロセッサ系市場と、オープンソースのプロセッサコアとして注目を集めているRISC-Vだ。Armをはじめとするマイコン市場では当社の実績もかなり積み上がっており、Armの32ビットプロセッサの組み込み開発でも採用が広がっているが、今後はArmv8アーキテクチャから採用された64ビット対応の市場が拡大するとみている。
実は、IAR Embedded Workbenchにおける64ビットArmへの対応は、国内顧客の要望に沿う形で開発を進めたものだ。国内に有力企業が多いFAを中心とする産業機器では、リアルタイム性の確保と性能追求を両立できるように、Armの「Cortex-Aシリーズ」を使った組み込みLinuxやリアルタイムOS、ベアメタルでの機器開発が求められている。この需要にしっかりと応えていきたい。
一方のRISC-Vは、欧米や中国などの海外市場での採用が先行しており、国内市場はこれからになるだろう。ただし、短期開発が求められるとともに、製品ライフサイクルも短く、設計開発コストも低減したいIoT(モノのインターネット)デバイスではRISC-Vが向いているのではないか。海外では、スマートホーム、AIスピーカー、ウェアラブル端末などに採用されており、このトレンドは日本国内にも波及するだろう。
MONOist IAR Embedded Workbenchの新機能では、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)への対応もあります。国内市場の需要はいかがでしょうか。
原部氏 CI/CDへの対応は海外市場からの要望に応えた機能になる。多拠点にわたるアプリケーション開発を行っている海外企業にとって、開発期間の短縮につながるCI/CDはうってつけの機能といえるだろう。国内市場は、スピードよりも信頼性を重視しているユーザーが多いのでCI/CDのニーズはまだ強いとはいえない。ただし、コロナ禍によりリモート開発のニーズもあり普及のタイミングが来ているのではないか。実際に、CI/CDのセミナーを開催したところ、当初想定よりも多くの参加があった。
MONOist 「組み込みセキュリティ市場の開拓」についてはいかがでしょうか。IoTの普及に向けて注目を集めてきましたが、実際に組み込みセキュリティを採用する事例はまだ少ないイメージが強くあります。
原部氏 IAR Systemsは、組み込みセキュリティ企業のSecureThingzを傘下に収めたことで、組み込みセキュリティに関するソリューションを提供できるようになった。開発フェーズでは、セキュリティの根幹をなす基本要素であるRoot-of-Trustを実装するための「Embedded Trust/C-Trust」を提供している。さらに、生産フェーズへのスムーズな移行に向けて、2019年から提供している「Secure Desktop Provisioner」により、マイコンへの安全なプロビジョニングも行えるようになった。
組み込みセキュリティは法制度の整備も進んで市場として温まりつつある。SecureThingzが培ってきた13のセキュリティベストプラクティスの実装に向けたトレーニングコースも用意しており、提案活動を強化していく。
MONOist これら2つの戦略の他にも、日本独自の活動となるFSEGもありますね。
原部氏 FSEGはFunctional Safety Expert Groupの略で、主に一般産業機器向け機能安全規格であるIEC 61508への準拠を支援する企業の集まりだ。IARシステムズもメンバーの一員として参画している。
機能安全というと自動車向けのISO 26262もあるかと思うが、自動車がある程度アプリケーションが規定されているのに対して、IEC 61508はさまざまなアプリケーションがあり得ることもあって規格への準拠が難しい。また、規格に頼らない形で安全性の向上に努めてきた日本企業にとって規格対応が苦手なことも多い。FSEGの活動に積極的に関わることで、従来の組み込み開発ツールベンダーとしての立場にとどまらない、組み込み開発環境のトータルコンサルティングの提供を目指していきたい。
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