コロナでどん底の町工場が「首掛けフェイスシールド」で復活を遂げるまで:イノベーションのレシピ(3/3 ページ)
新型コロナウイルス感染症で売上高がほぼゼロになったが、「首掛けフェイスシールド」のヒットで復活を遂げた――。こうした“奇跡の復活劇”を演じた町工場が大高製作所だ。“復活劇”はいかにして可能になったのか。同社代表取締役に話を聞いた。
放送/映像業界で大人気に
MONOist 偶然のひらめきからヒット商品が生まれたのですね。
大高氏 ヒットにつながったのは、ECサイトでの販売を開始したのも大きい。
実は、社会課題解決に貢献したいという思いから医療機関向けの提供を考えていたのだが、大手の医療機器メーカーで構築された流通ルートには、新規プレイヤーの参入余地はなかった。そこで方向転換して、Web上で広く製品を販売することにした。それまで当社は電話やFAXで注文を受けるという“アナログ”な方式で販売していたが、これを改めた。すると「フェイスシールド」の画像検索結果で、当社製品が上位に表示されるほど注目度が高まった。他社のフェイスシールドに比べて目立つデザインに仕上がっていたのが大きいと思う。
やがてNHKの番組制作会社から、出演者向けの感染対策製品として購入してもらえた。ただその際に、女性俳優の首が想定より細く、レイヤードをそのまま装着すると落ちてしまうので「フレームの角度変更などができるようにしてほしい」とリクエストをもらった。
これを契機に、口コミで関西テレビなどの放送局や東映、松竹など放送/映像関係の企業からオファーをもらうようになった。特にうれしかったのが、あるスタイリストの方が「(感染対策は)大高製作所の製品じゃなきゃ嫌だ」と番組プロデューサーに直談判してくれたというエピソードだ。これを聞いて、現場の作業者に喜んでもらえる製品を作れたのだと実感できた。放送/映像業界以外では塾など教育分野での引き合いもある。
MONOist レイヤードの開発で苦労した点はありますか。
大高氏 実のところ、設計や製造関連ではあまり苦労していない。むしろ、これまで当社が取引をしていた顧客以外に販路を広げる過程が大変だった。
当社はこれまでB2Bで下請け業務を担っていた。幅広い顧客を対象に広告宣伝を行ったり、顧客管理や商品梱包、発送を行ったりという経験は全くない。そのため、(一般顧客向けの)メールの送り方や、費用管理のためにExcelの使い方などを一から学んだ。ECサイトの運営ノウハウもなかったので、私自身がよく読んでいたブログ管理人に相談して、詳しい方を紹介してもらうなど協力してもらった。現在では、レイヤードモデルの梱包と発送作業は外注して、神奈川モデルに関しては自社で梱包、発送を行う体制にしている。
成功要因の1つは「Webへの抵抗感」がなかったこと
MONOist COVID-19による大打撃を受けた中で、レイヤードという“突破口”を発見できた要因は何だと考えますか。
大高氏 1つの要因としては、Webを使うことへの抵抗感があまりなかった、ということがあるだろう。
私は昔からSNSなどWebサービスに親しみがあり、自社のWebサイトも用意していた。これが、レイヤードの製作時にうまく波に乗れた理由でもある。一方で、町工場の中には、SNSアカウントの取得を勧めても「炎上が怖いから」と避ける、Webサイトも「作りたくない」と嫌がるケースも少なくない。
Webサイトを持っている町工場でも、多くは「低コスト、短納期で高品質の商品を提供します」など一般的な宣伝文句が書かれているだけというケースも多い。これでは具体的にどのような取り組みを行っているのかを伝えられない。当社のWebサイトでは、IT企業が行っているような「社長ブログ」を掲載するなどで情報発信を行うようにしている。
MONOist 今後の展望を教えてください。
大高氏 フェイスシールドはマスクと違い、個人の笑った口元など笑顔が見えるのが強みだと思っている。また、レイヤードの飛沫感染防止効果については検証を行い、飛沫拡散の防止に一定の効果があると確認している。将来的にCOVID-19が感染収束した後でも、マスクの代わりに使い続けてもらえる製品を作りたい。
この他、モスアイ構造を採用したシートでシールド部分を低反射化した新タイプの製品も現在開発中で、クラウドファンディングも開始した※。
※2021年6月18日に開始。
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