「100年防食」を誇る町工場はリーマンショックにも動じない:イノベーションで戦う中小製造業の舞台裏(9)(1/4 ページ)
自社のコア技術やアイデアを活用したイノベーションで、事業刷新や新商品開発などの新たな活路を切り開いた中小製造業を紹介する本連載。今回は、「100年間、鉄を錆びさせない」という表面処理加工技術を持つ新免鉄工所を紹介する。リーマンショックにも動じず、間もなく創業100周年を迎える同社の強みに迫る。
大阪・梅田からクルマで15分。淀川を渡って伸びる阪神高速と阪神電鉄本線の高架がそれぞれに向きを変える場所に、表面処理加工で「100年防食」を誇る新免鉄工所がある。2016年10月に創業100周年を迎える同社に鉄を守る技術について伺った。
ブラスト加工、溶射×塗装で鉄を100年間守る
「僕は小学生の頃から工場で仕事をしていたんですよ」と語るのは、新免鉄工所の4代目社長である新免謙一氏だ。もちろんその当時は簡単な仕事しかしていなかったが、錆びついた鉄がピカピカになって工場を出ていく様子を見るのが楽しかったそうだ。
高速道路の橋梁や道路標識、店舗の看板、町のあちらこちらに自分の工場で加工されたものがある。そうしたモノづくりの原点のような楽しさがあるからだろう。同社には親子2代で働く従業員もいるという。
新免鉄工所では、ブラスト、溶射/焼付塗装などの表面加工全般を行っている。鉄は単価が安く強い。そして加工も比較的しやすいから、昔も今もモノづくりを支える素材だ。しかし、鉄は必ず錆びる。それを防ぐのが表面加工だ。同社は、鉄を守ることに特化した会社といえる。
鉄の錆の原因となる空気と水を遮断する方法の1つとして広く利用されているのが表面塗装だ。しかし塗装には課題がある。塗料は樹脂などでできていることが多いため、紫外線に当たると劣化してしまう。劣化して小さな割れ目(クラック)が入れば、そこから浸水し、内部が錆びる。素地である鉄まで水分が到達すると腐食が一気に進んでしまう。
それを防ぐ技術が溶射だ。あらかじめ、鉄の表面に亜鉛やアルミニウムなどの鉄よりも卑な(酸化されやすい)金属を高温で溶かして吹き付け、被覆する。それらの錆びやすい金属がなくなるまでは鉄を守ることができる。塗装のように空気を遮断して防食するのではなく、電気化学的に鉄を守る技術だ。
「海沿いの町など、塩害に悩まされる環境では特に有効な技術です」という。
そしてブラストは圧縮空気に研磨材を混ぜて吹きつける加工技術だ。古い塗装やサビを完全に取り除いたり、素地に細かな凹凸をつけたりすることで表面積が増えて塗料のノリが良くなり、塗膜が長持ちする。
同社が掲げる「100年防食」は、塗装と溶射、ブラスト加工から成る技術の集積である。「理論値ですが、アルミニウム・マグネシウム合金溶射の耐用年数は121年以上です」と新免氏はいう。
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