コロナでどん底の町工場が「首掛けフェイスシールド」で復活を遂げるまで:イノベーションのレシピ(2/3 ページ)
新型コロナウイルス感染症で売上高がほぼゼロになったが、「首掛けフェイスシールド」のヒットで復活を遂げた――。こうした“奇跡の復活劇”を演じた町工場が大高製作所だ。“復活劇”はいかにして可能になったのか。同社代表取締役に話を聞いた。
フェイスシールドの“暑さ”を改善したかった
MONOist フェイスシールドの設計、開発経験がない中で、どのようにプロジェクトを進めたのですか。
大高氏 開発は、神奈川大学経営学部国際経営学科の准教授である道用大介氏に協力を仰いだ。同氏は当時、Web上でフェイスシールドの3D CADデータを公開していた。フレーム部分は3Dプリンタで造形し、シールド部分には書類用のクリアファイルを用いる。フレームのピッチは市販の(穴あけ)パンチの穴と同サイズで、身の回りにあるもので組み立てられるように配慮がなされていた。
道用氏にCADデータの使用許可を求めたところ、2つ返事で快諾してもらえた。また「金型でフェイスシールドのフレーム製作を行う事例はあまり聞かない。ビジネスとして展開すると面白いかもしれない」とアドバイスされて、同氏の知的財産権に触れる特許申請は行わないことなどを条件に、フェイスシールドの事業展開も認めてもらえた。
初めに取り掛かったのはフレーム部分の改良だ。金型メーカーの目から見ると、フレーム部分がやや雑な作りに感じられたため、丸みを帯びた滑らかな形状に成型できるよう工夫することで着用感を向上させた。
そして一般的なフェイスシールドのように、フレームを頭部にカチューシャのように装着する製品を開発し、2020年に5月末に頭に掛けるフェイスシールドを販売開始した。トップダウンで製作を進めたので、開発に着手してから1カ月程度でリリースできた。
ちなみに当社では頭にフレーム部を掛けるタイプを、当社の所在地や道用氏の所属大学などを意識して「神奈川モデル」と呼んでいる。
MONOist そこからどのようにしてレイヤードが生まれたのでしょうか。
大高氏 きっかけは、神奈川モデル着用時の暑さを何とか解消したいと考えたからだ。
もともとフェイスシールドは医療用途で開発されている。そのため、日常的なシーンで使うと汗をかきやすく、特に女性はファンデーションなどが崩れやすくなる。正直に言えば、私自身も着用時の暑さに悩んで、少し嫌になってしまうことすらあった。
だが、ある商談の後、帰社のため車に乗り込んだ際にあまりに暑かったため、無意識にフェイスシールドを逆さまに付け替えた。フレームを頭ではなく首に掛ける格好だ。すると意外にも風通しが改善して涼しくなり「これは使えるのではないか」とひらめいた。
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