コロナでどん底の町工場が「首掛けフェイスシールド」で復活を遂げるまで:イノベーションのレシピ(1/3 ページ)
新型コロナウイルス感染症で売上高がほぼゼロになったが、「首掛けフェイスシールド」のヒットで復活を遂げた――。こうした“奇跡の復活劇”を演じた町工場が大高製作所だ。“復活劇”はいかにして可能になったのか。同社代表取締役に話を聞いた。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で売上高がほぼゼロに。だが、あるアイデア商品のヒットによって窮地を乗り切った――。
こうした“奇跡の復活劇”を演じた町工場が神奈川県横浜市にある。金型製造を本業とする大高製作所(正確な「高」は、口の部分が目になっているはしご高)だ。同社が開発したフェイスシールド「レイヤード」は放送/映像業界を中心に高い支持を集め、一般販売開始から1カ月半で約1万個を売り上げた。一般的なフェイスシールドは頭にフレーム部を装着するが、レイヤードはフレームを首に掛けるのが特徴だ。
レイヤードの「首掛け」という発想がなぜ生まれたのか。また“復活劇”はいかにして可能になったのか。大高製作所 代表取締役の大高晃洋氏に話を聞いた。
コロナ禍で「受注ゼロ」に
MONOist 最初に、大高製作所の企業概要を教えてください。
大高晃洋氏(以下、大高氏) 当社の創業は1984年で、先代である私の父が神奈川県横浜市に設立した。その後、2005年に私が2代目の跡継ぎとして承継して、今に至る。本業は車のエンジンやモーターケースなど、精緻な構造を持つ金属の製造に用いる金属鋳造手法であるダイカスト向けの金型製作だ。
現在は、COVID-19に対応するフェイスシールド製品の開発、販売も行っている。フレーム部分を首に掛ける「レイヤード」と、頭に装着する2タイプがある。シートはフルサイズとハーフサイズの2種類があり、同じくフレームのサイズも2種類、カラーも黒白の2タイプがあり、それぞれを組み合わせて使用できる。シート部分はPET樹脂、フレーム材質はABS樹脂を採用した。
MONOist フェイスシールドの開発を始めたきっかけは何でしょうか。
大高氏 2020年4月頃、ニュースではマスクや人工呼吸器、アルコールなど、とにかく医療機器が不足していると毎日のように取り沙汰されていた。その中で、モノづくりを家業としている身として自分でも役立てることはないかと考えた。会社が横浜市にあるので、ダイヤモンドプリンセス号※が身近な存在だったことも関係しているかもしれない。
※2020年にCOVID-19の集団感染が発生して、横浜港で検疫/隔離が行われた。
最初はマスクや人工呼吸器を作ろうとしたが、どちらも金型屋が一から手掛けるには荷が重かった。そこで、フェイスシールドであればどうかと思い立った。フェイスシールドのフレーム部に使う樹脂成型の金型は当社でも製造できる。フレーム自体の量産やシートの生産は他社に発注する形式でスタートした。
それまで経験のなかった分野への進出を決めたのは、COVID-19で当社業績に大きなマイナス影響が出たことも要因として大きい。取引関係にあった大手企業がリモートワークに移行した他、出社禁止措置をとったので、商談や打ち合わせが難しくなった。医療機器関係の製品を手掛ける企業を除くと、当社だけでなく町工場は全体的に大きな打撃を受けたはずだ。実際に、当社も2020年3月は受注ゼロという状況に陥った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.