人工靭帯などへの応用が期待、引っ張ると頑丈になる自己補強ゲルを開発:医療機器ニュース
東京大学は、引っ張ると頑丈になる、自己補強ゲルを開発した。力を取り除くと元の状態に戻る即時回復性も兼ね備えているため、生体に埋め込む人工運動器への応用が期待される。
東京大学は2021年6月4日、引っ張ると頑丈になる、自己補強ゲルを開発したと発表した。世界最強水準という強靭性に加え、力を取り除くと元の状態に戻る即時回復性も兼ね備え、生体に埋め込む人工運動器への応用が期待される。
開発した自己補強ゲルは、環状分子によって高分子鎖が連結された環動ゲルを用いている。環動ゲルは高い強靭性を示すことが知られているが、傷が入ると簡単に亀裂が生じて壊れやすいという欠点がある。
今回の研究では、環動ゲル中の環状分子の数や高分子鎖の長さ、高分子濃度などを調整した。その結果、環動ゲルに負荷をかけて伸長すると高分子鎖が環動架橋点をすり抜けて均一に引き延ばされ、伸びきった高分子鎖が寄り集まって結晶化する伸長誘起結晶化が生じることを発見した。
自己補強ゲルは、亀裂を入れてから繰り返し大きく引っ張っても、亀裂の先端で引き延ばされた高分子鎖が結晶化し、亀裂の進展が抑制された。また、力を取り除くと、すぐに高分子鎖の結晶は消失し、元の状態に戻った。一方、通常のゲルに亀裂を入れて引っ張ると、すぐに亀裂が進み破断した。
開発した自己補強ゲルは、破壊エネルギー約20MJ/m3と世界最強水準の強靭性を持ち、繰り返し変形させても約100%の即時回復性を示した。
水を主成分とする高分子ゲルは人体に埋め込む生体材料に適しているため、強靭性と回復性を兼ね備える材料が期待されている。今回開発した自己補強ゲルは、繰り返し大きな負荷がかかっても一定の力学応答を示すため、人工靭帯や人工関節への応用が期待される。
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