量産部品の設計に必要な知識と品質に関する考え方:アイデアを「製品化」する方法、ズバリ教えます!(8)(3/3 ページ)
自分のアイデアを具現化し、それを製品として世に送り出すために必要なことは何か。素晴らしいアイデアや技術力だけではなし得ない、「製品化」を実現するための知識やスキル、視点について詳しく解説する連載。第8回は、量産部品を設計するために必要な知識と配慮すべき具体的な事項、さらには品質との関係を取り上げる。
量産部品ならではの形状【板金】
量産部品ならではの形状とはやや違うが、筆者が前職の会社に入社して最初に描いた図面の話である。当時はもちろんドラフターにシャープペンシルの世界だ。部品設計から発注までの流れを勉強するために、ステンレス製の字消し板を設計することになった。字消し板とは、図面上の線を消しゴムできれいに消すためのものだ。筆者は図6のような図面を描き、確認のために係長の所へ持っていった。そのとき、開口一番にいわれたことは「角にはRを付けてね。危ないから」であった。大学で4年間、製図を含めて機械設計を勉強したのに、こんな基本的なことも知らなかったと実感したことを覚えている。これは安全性に関わることであるが、量産部品には基本中の基本の知識である。
板金の曲げの近くに丸穴を作製することはできない。一般的な金型のプレス加工の場合、穴加工の後に曲げ加工がある。この曲げ加工のときに、丸穴の形状が曲げに引っ張られて変形してしまうのだ。よって、丸穴の近くを曲げるときは、曲げ部にスリットを入れる必要がある。具体的な設計方法については「板金 曲げ 穴」でWeb検索してほしい。これらがプレス成形による板金の量産部品に必要な知識だ。
板金加工は、展開された板金に穴を開け、最後に曲げていく。展開形状や穴位置、曲げ順を頭に入れた設計が必要になってくる。タレパン(タレットパンチプレス)を用いた少量生産の加工の場合はかなり融通が利くが、金型でのプレス加工の場合はこれらの知識を持たずに設計してしまうと、そもそも形状が成り立たなかったり、部品がコストアップしてしまったりする。
量産部品と試作部品の設計の違い
今回解説した前半部分では、量産部品の設計に際して必要な知識である、製品の製造性と安全性、信頼性に関する内容をお伝えした。品質が良い製品/部品とは、これらがしっかりと考えられた設計のことである。そして、後半部分では、部品の製造性に関してお伝えした。直接、品質には関わらない内容もあるが、部品を金型で量産するためには絶対に必要な知識である。
試作部品や展示品の作製などでは、ここまで考えた設計は必要ない。もちろん、量産につなげるためには試作段階から、これらの対応をしておくことは大切であるが、展示品ではそもそも必要でなかったり、試作段階ではコストや設計期間の関係から省略したりすることもある。よって、試作部品と量産部品は、設計の段階から形状が違うことになる。
日本の品質レベルが高いといわれるゆえんは、量産部品の品質レベルが高いということであり、これを維持していくためには、ここまでお伝えした知識を基に設計する必要がある。また、その設計に量産ノウハウをアドバイスしながら部品を製造しているのは、卓越した製造技術を持つ日本の町工場であることも知っておかなければならない。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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